経済産業省「電力設備電磁界対策WG報告書」への意見(2008.2経産省に)

「電力設備電磁界対策ワーキンググループ報告書(案)」に対する意見
(パブリックコメント募集に対する電磁波問題市民研究会の意見)

 1.P8「3.2 EHCNo.238とファクトシートNo.322の関係」について

[意見内容]

 報告書(案){以下(案)}は、EHC(環境保健基準)はWHOの専門家チームの見解をとりまとめた報告書であってWHOの決定や方針を必ずしも代表するものでなくファクトシートこそ正式な見解だ、としている。しかし、WHOファクトシートでは「本ファクトシートは、このタスクグループの知見(EHCNo.238を指す)に基づくものである」と明言し、(案)のように「EHCとファクトシートを対立させた」理解はしていない。それどころか、WHOファクトシートでは、「更なる読み物」として、「EHCNo.238」を挙げている。事実に反するこのような(案)の恣意的理解は、EHCを経産省の都合のいいように解釈し利用しようとするものに他ならず、およそ公正な立場とはいえない。

2.P8「3.2.1 Precautionary approach」の誤った訳

[意見内容]

 上記1の姿勢が早くもこの部分で露呈している。「Precautionary approach」は通常、「予防的措置」あるいは「予防的アプローチ」と訳す。「念のための」という訳は、「予防的」という明らかにより積極的な意味合いを持つ訳を薄めるための意図的な訳と批判せざるをえない。この訳の奇妙さは、たとえば「Precautionary Principle」を通常「予防原則」と訳しても「念のための原則」などと訳さないことを指摘すれば十分であろう。なんとしても日本の電力業界に打撃を与えないようにしようと、できるかぎりの「配慮」をしているためであろうが、ここまでくると醜悪である。

 3.P10「電磁波過敏症について」の誤解

[意見内容]

 (案)は電磁波過敏症について明らかに否定的見解に立っている。しかしWHOファクトシートNo.298(2005年12月)は、「EHS(電磁波過敏症)は、多様な非特異的症状として特徴づけられ、症状は人によって異なっています。症状は確かに存在していますが、その重症度は非常に広い幅があり、どのような症状を引き起こすにせよ、影響を受ける人にとってEHSは、日常生活に支障をきたす可能性のある問題です」と結論の項で述べている。たしかに一方で「EHS(電磁波過敏症)は、明確な診断基準を持たず、EHSの症状が電磁界曝露と関連するような科学的根拠はありません」とも同じ結論部分で述べている。
 しかし、これは「(EHSと電磁界曝露の)因果関係はいまだ解明されていない」からであって、WHOは「EHSの症状は確かに存在する」ことを認めていることを前提にした上での見解である。つまり「症状は確かに存在するが、どのようなメカニズムで発症するのか、といった因果関係はまだ解明されてはいない」というのがWHOの見解なのである。だからこそ、2004年のプラハでの「WHO電磁波過敏症ワークショップ」を経て、電磁波過敏症を「本態性環境非寛容症(IHI)」と位置づける訳語を排し、「EHS(電磁波過敏症)」と明確に電磁波による症状、とWHOは定義づけたのである。「因果関係は解明されていない」ことと、「EHSの症状は確かにある」ことは両立するのであって、「因果関係が解明されていないから、EHSは主観的なものにすぎず、病気として存在しない」という曲解は許されない。

4.P15「4.1.3 電力線等から発生する磁界の強さ」の部分

[意見内容]

 平成15年から4年間にあたって経産省自らが実施した調査によれば、路上変圧器やケーブルの立ち上がり部において今回経産省が方針化しようとしている磁界基準値「50ヘルツで100マイクロテスラ、60ヘルツで83マイクロテスラ」を現状においても最大値では超えている、としている。この事実は重大である。経産省は直ちに、そうした地域はどこであるかを具体的に公表すべきだし、同時に「既存の電界規制値である3kV/mを超えている箇所・地域があるのか否か」についても包み隠さず公表すべきである。ワーキンググループ会合を傍聴したが、調査における生データを公表していない。これでは国民の知る権利が保障されない、と言わざるを得ない。

5.P21「4.2.2 疫学研究」における恣意的疫学解釈について

[意見内容]

 (案)では、「喫煙は肺がん発症の大部分を説明できる主要な発がん原因であり、相対危険度は5~15倍の増加を示すことが、疫学が力を発揮できる背景にある」とか「コホート研究が高い信頼性を持つ理由は、追跡調査によって曝露状況に応じた発症リスクが罹患率、死亡率を指標として評価することができることによる」と記述している。(案)が意図していることは、「0.3~0.4μTを超えると小児白血病の相対危険度が2倍になるといっても、たかが2倍でしかない」「小児白血病相対危険度を示す疫学研究は症例対照研究でコホート研究でないから信頼性が高くない」といったように、小児白血病と電磁波の相関関係を示す疫学調査結果をあまり重視しないようにする、ことにある。しかし、岡山大学大学院環境学研究科で疫学を専門にしている津田敏秀教授は、「IARCの発ガン性評価では相対危険度が5・15倍なければグループ1に分類されないかのごとき誤解を与えています」「ここではコホート研究の強みを強調しすぎています。症例対照研究と同じです」(2008年2月3日・福岡市で開催された「電磁波の健康影響を考えるシンポジウム」における津田敏秀教授の意見書)と明快に(案)の見解を批判している。こうした(案)の疫学に対する恣意的見解は、日本における電磁波対策を遅らせることにつながり問題である。

6.P29「5.3.2 コミュニケーション・プログラムの構築について」を含めたリスクコミュニケーションの欠如について

[意見内容]

 EHCにおいて、利害関係者を計画に参加させるリスクコミュニケーションの必要性は特に重視されている。(案)でもそのことは紹介されているが、実際の経過や内容は言葉とは裏腹である。まず、この(案)作成過程自体において、EHCでいう利害関係者としての「アドボカシー団体」や「市民」をワーキンググループに参加させず、一方で電力会社の関係者は参加させる、という不公平な扱いをしている。こんなことで、より良きリスクコミュニケーションが図られるはずがない。第4回WGで、「市民団体からの意見募集の報告について」が論議されたが、ほとんどの市民団体の意見はWGの方向性や論議に批判的だったにもかかわらず、(案)では市民団体の意見はほんの申し訳程度取り上げているにすぎない。こうした姿勢を反省せず「リスクコミュニケーション戦略の重要性」をいっても、説得力に欠ける。

7.P32「結論」について

[意見内容]

 以上のような問題点だらけの(案)の認識だから、結論もおそまつである。まず「磁界による短期的な健康影響について」だが、電磁波過敏症というもろに短期的健康影響と関係する問題への記述が一切ない。「はじめから、50ヘルツで100マイクロテスラ(千ミリガウス)、60ヘルツで83マイクロテスラ(830ミリガウス)の磁界規制を導入したい」が故の方便であろう。
 次に「磁界による長期的な健康影響の可能性について」だが、「(疫学研究の磁界と小児白血病増加との関連証拠は)その関連が因果関係と見なせるとは言えないというものである」と否定的である。EHCは、慢性影響の健康リスク評価について、原文は「Thus,on  balance the evidence is not strong enough to be considered causal,but sufficiently strong to remain a concern」と記述している。これを訳せば「(磁界曝露と小児白血病の相関を示す証拠は)だから、結局のところ、因果関係があると見なすほど証拠は十分に強くはないが、懸念が残るには十分に強い証拠である」とするのが一般的であろう。つまり(案)は原文の後半部分はカットし、前半部分のみに限定しているのである。こうした小細工が意図することは明白である。EHCが予防的アプローチを推奨しているのは、「因果関係を示す証拠にまで至っていないが、懸念が残る証拠は十分ある」からである。ところが(案)は「因果関係と見なせるとは言えないというものである」だけ強調するから、おのずと弱腰な「念のための措置」に堕するのである。

8、P34「政策提言」について

[意見内容]

 これまでの(案)の認識の誤りが集中的に表現されているのが「政策提言」部分である。
 日本において、初の磁界規制を導入するのであれば「どうすれば国民の健康は守れるか」ということを最重視すべきなのであって、はじめから「電力業界も許容できる範囲に落ち着かせよう」というのは、根本が間違っている。
 まず、短期的曝露による健康影響対応であるが、現在、今回のWHO・EHCの発表を受けて、ICNIRP(国際非電離放射線防護委員会)やIEC(国際電気標準会議)が既存のガイドラインや国際規格の見直し作業に入っている。しかし(案)は「国際規格の成立に時間がかかるのであれば、この成立を待つことなく」日本独自に磁界規制を導入しようと政策提言している。これは明らかに拙速である。既存の数値が改訂されより厳しいものになるかもしれないのに、1998年のICNIRPガイドラインを導入しようというのだからだ。それと一般環境基準と別に労働環境基準を検討すべきである。さらに「電磁波過敏症対策」として、一般基準や労働基準と分けて「用心値の設定」について公開の場で論議検討すべきである。
 低レベル磁界による長期的な健康影響については、「0.3~0.4マイクロテスラ(3~4ミリガウス)で小児白血病相対危険度が約2倍」となる疫学研究結果を重んじ、「幼稚園、保育所、小学校等多数の子どもが定常的に集まる場所」や「電磁波過敏症等の社会的弱者」に配慮した、どのような予防的アプローチが適切かについて、住民・市民・市民団体を含めた「公平・民主・公開」の原則による協議機関を早急に設置することが必要である
 リスクコミュニケーション活動として「中立的な常設の電磁界情報センター機能」が必要と(案)は記述しているが、この「中立的」という言葉はあいまいである。EHCが言うような「事前に情報提供されることですべての利害関係者による意思決定が可能になるような」効果的でオープンなコミュニケーション戦略を保障するための機関の設置、と明確にすべきである。当然その機関には市民や電磁波問題に取り組んできた市民団体の参加が保障されなければならない。
 上記の政策提言が実行に移されれば、「曝露低減のための低費用の方策」の道筋も具体化していくであろう。電磁波分野に、国政的潮流になっている市民参加・NGO参加をどう保障していくかが、今求められているのである。

2008年2月22日        電磁波問題市民研究会

「電力安全課総合資源エネルギー調査会原子力安全・保安部会電力安全小委員会電力設備電磁界対策ワーキンググループ報告書」 2008年6月30日 原子力安全・保安院

「電力設備電磁界対策ワーキンググループ報告書(案)」に対する意見募集の結果について」 2008年6月30日 経済産業省原子力安全・保安院電力安全課


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