「生体電磁環境に関する検討会 第一次報告書(案)」への意見(2015.6総務省に)

総務省は「生体電磁環境に関する検討会 第一次報告書(案)」に対して意見募集を行い、当会は2015年6月3日に意見を提出しました。

(1)意見募集(総務省のウェブサイト)
(2)当会が提出した意見(下記の通り)
(3)意見募集結果(当会が提出した意見、それへの回答も含む)、及び意見を反映後の同案(総務省のウェブサイト)


 

第一 意見の要旨

  • 「生体電磁環境に関する検討会」(以下「当検討会」と言う)は、利益相反への配慮がなく、かつ、人選が偏っていることから、「現行の電波防護指針は妥当」との結論ありきの検討会だと言うことができる。
  • 携帯電話のヘビーユーザーにおける神経膠腫と聴神経腫のリスク増加について、「生体電磁環境に関する検討会 第一次報告書(案)」(以下「報告書(案)」と言う)は不当に低く評価している。
  • 電磁波について、予防原則(Precautionary Principle)等に基づく施策を早急に導入する必要がある。電磁波のリスクは科学的に不確実だが「潜在的に重大になり得るもの」なので。
  • 報告書(案)が示す電磁波過敏症についての考え方は、誤りである。「二重ブラインド法」による曝露実験は問題がある実験方法であり、又、検討会は電磁波過敏症の臨床に携わる医師等について調査していない。
  • 報告書(案)の「電波防護指針を適用することで、電波の安全な利用が担保される」という結論は、誤りである。被害の訴えについて調査していないので。
  • 報告書(案)が示すリスク・コミュニケーションは、真の意味のそれではない。「電波の利用の促進」を所掌事務とする総務省から独立した環境で、すべての利害関係者が参加するリスク・コミュニケーションを行うべき。
  • 報告書(案)の「携帯電話事業者は、現在でも開設の際に必要な情報を周辺住民に説明している」との記載は実態と乖離しており、そのように記載した根拠を示すべき。
  • 公共交通機関等での携帯電話等のルール設定については、総務省植込み型指針よりも、利用者の声を最も重視して検討すべき。

 

第二 意見の内容

一 当検討会の構成について

 当検討会は、「現行の電波防護指針は妥当」という結論ありきの検討会である。それは、構成員についての以下の問題点から明らかである。

 (1)過去に利益相反を指摘された者が構成員になっている1。その他の構成員についても利益相反に係る情報が示されていない。

 (2)電磁波による健康障害を訴える患者、及びその診察・治療を行っている医師が参加していない。

 (3)電磁波に悩む市民を支援する団体から参加していない。

 かかる検討会による報告書(案)は正当なものではあり得ない。この報告書をもとに行政が政策を遂行し、業界が電波利用をさらに促進することにより、市民の健康及び生命に危害が及ぶおそれがあり、社会正義に著しく反する。

1 宇川義一、大久保千代次、名川弘一、宮越順二、多氣昌生、野島俊雄、藤原修各構成員は、電波産業会(もしくはNTTドコモ)の研究に関わったことがある。

 

二「第1部 電波の人体への影響について」について

1「3.1.2. 無線周波(RF)電磁界の健康影響(1)腫瘍性疾患」について

 報告書(案)は「これまでの疫学研究においては、携帯電話のヘビーユーザーにおける神経膠腫と聴神経腫のリスク増加に関する懸念が示されていた。しかし、最近のコホート研究と経時的発生傾向に関する研究に基づくと、神経膠腫に関する証拠の確からしさはより限定的なものとなってきている。なお、聴神経腫との関連の可能性については、注目すべき研究の進展は見られていない」と述べている。

 しかし、報告書(案)の「参考資料4」に紹介されている疫学研究(ここで述べている「最近の…研究」より新しい研究も含む)は、携帯電話の長期又は長時間ユーザーにおいて各種脳腫瘍のリスクが上昇するという結果が多い。

 このことから、報告書(案)は、リスクを不当に低く評価していると言える。

 なお、報告書(案)は「近年の動物実験による結果では…ほとんどの研究においてRF電磁界ばく露と脳腫瘍との関連性が認められていない」「細胞研究においては…ほとんどの研究結果において、国際ガイドラインの許容値以下のRF電磁界ばく露においては、影響は観察されないとの結論が導出されている」とも述べているが、ヒトへの影響の評価において、動物実験及び細胞研究よりも疫学研究が優先されることは、言うまでもない。

 

2「4.2. 「用心のための取組」に関する考え方」について

 ALARA、Precautionary Principle(一般的な表現では、予防原則。報告書(案)の表現では「用心のための原則」)、及びPrudent Avoidance「慎重なる回避」の3点について、報告書(案)は、「用心のための取組」と一括りにし、これらを「適用すべき状況ではないと判断する」と述べている。その理由として、以下の5点を挙げている。

(1)WHO 国際電磁界プロジェクトが2000年に公表した「用心のための政策」

(2)WHO 国際電磁界プロジェクトが2007年に公表した低周波磁界についての環境保健基準(EHC)

(3)欧州委員会が 2001年に公表した報告書

(4)平成19年に公表された「生体電磁環境研究推進委員会」の報告書

(5)「最新の研究においても、長期的影響の存在について新たな科学的証拠は得られていない」

 これらのうち、まず(5)についてだが、報告書(案)にも書かれている通り、「一定の不確実性を持つリスクについて、どのように管理をするかという」「大きな課題」に向き合うために、上記「用心のための取組」が国際的に検討されているのであって、「新たな科学的証拠は得られていない」ことをもって、「用心のための取組」を否定することは、自己矛盾である。

 また(2)のEHCは「被曝を低減するためにはごくわずかなコストで済む予防的措置を講じることが合理的であり、正当なことである。(1.1.12 防護手段)」と明記しており、予防的措置に対するEHCの態度は、あくまでも肯定的なものである。それなのに、報告書(案)は「もし指針を補足するために用心のための方策を考慮する場合であっても、科学に基づくガイドラインを損なうことがないような方法で適用されるべきである」と述べ、あたかもEHCの態度が否定的であるかのように、歪曲して表現している。

 また、(1)(2)(3)(4)が根拠になるのであれば、そもそも当検討会を設置する意味がない。

 携帯電話の長期使用によって脳腫瘍のリスクが上昇することを示す研究が、近年相次いで発表された。報告書(案)の参考資料が示している以外にも、スウェーデンの研究者が25年超の携帯電話の使用で神経膠腫3.0倍のリスクを見いだした2。これらの研究結果は、国際がん研究機関がRF電磁界を「グループ2B(Possibly carcinogenic to humans)」へ分類した際に重視したインターフォン研究結果を補強するものである。

 今、子どもたちも含めて多くの市民が携帯電話を使用しており、携帯電話の「長期使用」者は、将来にわたって膨大な人数となっていく。したがって、電磁波のリスクは科学的に不確実性だが「潜在的に重大になり得るもの」に該当することは明らかであり、Precautionary Principle等に基づく施策を早急に導入する必要がある。

2 Hardell L, Carlberg M(2014) Mobile phone and cordless phone use and the risk for glioma – Analysis of pooled case-control studies in Sweden, 1997-2003 and 2007-2009. Pathophysiology

 

3「4.3. いわゆる「電磁過敏症」についての考え方」について

 報告書(案)は、電磁波過敏症(報告書(案)の表現では「電磁過敏症」)について「電波の健康リスク管理において考慮すべき状況にはないと判断する」と述べ、その理由として、「第3章で確認した最新の研究結果」等を示している。

 第3章では「短期的(数分から数時間)ばく露に関連する症状に関しては、これまでに数多く実施されたヒトを対象とした二重ブラインド法実験の結果により、症状発症とRF電磁界に因果関係はないとの結論が強力に裏付けられている」等と述べている。

 しかし、これまでに行われた「二重ブラインド法」による曝露実験は問題がある実験手法であり、これらの結果をもって電磁波過敏症を否定することはできない。その主な問題点は、以下の通りである。

(1)電磁波過敏症の発症者と、発症したと思い込んでいるだけの者とを区別していない

(2)発症者の体調や、実験時のストレスにより、電磁波被曝時と非被曝時との違いが明確に出ないおそれがある

(3)被曝と症状出現にタイムラグがある発症者もいる

 電磁波過敏症と同様の病気である化学物質過敏症についても、「二重ブラインド法」による結果は必ずしも明確でなかった実験も多くあるが、それでも、今日、日本も含め世界的に化学物質過敏症の存在が認められている方向にある。

 そもそも、電磁波過敏症の臨床に携わる医師や、発症者、支援団体から何の調査もせずに、電磁波過敏症と電磁波曝露の因果関係を否定する報告書(案)は、正当なものではあり得ない。

 報告書(案)は、「「電磁過敏症」を訴える人に対しては、臨床的に不安、苦しみを取り除く対応が必要である。そのため、これらの人の不安を取り除くことができるよう、電磁界の人体への影響について客観的・科学的に実態を捉え、確かな科学的根拠のあるデータを、関係者に広く提示していく努力を続けていくことが必要であると考えられる」と述べているが、電磁波過敏症の原因が「不安」であることを決めつけるこの報告書(案)こそが、発症者の「不安、苦しみ」を増長させるものである。

 以上により、報告書(案)の記載は誤りである。

 

4「4.4. 電波防護指針の妥当性に関する評価(リスク管理の在り方)」について

 報告書(案)は、「電波防護指針を適用することで、電波の安全な利用が担保される」と述べる。

 しかし、宮崎県延岡市で携帯電話基地局周辺の大勢の住民が健康被害を訴え基地局操業差し止めを求める裁判を提起したことをはじめ、「電波防護指針」に満たない強さの高周波電磁波による健康被害の訴えが各地で相次いでいる。

 化学物質過敏症、電磁波過敏症の臨床に長年携わってきた宮田幹夫・北里大学名誉教授は「医学は後付けの学問」とおっしゃる。まず、患者からの訴えから始まり、それを治療する、そのために研究をする-のであって、その逆ではない。研究者は、動物実験をする前に、まず延岡市などへ向かうべきである。

 症状を訴える人々について何の調査もしない報告書(案)は、正当なものではあり得ない。

 

5「5.2. 電波の安全性に関するリスク・コミュニケーション」について

 報告書(案)は、「国民からの不安の声は依然として一定程度存在する。この対応においては、行政から国民への一方向の情報提供を行うだけでなく、国民との間での対話(リスク・コミュニケーション)を促進することが重要である。このようなきめ細やかな対応を行うことにより、電波の影響についての正しい理解が広がり、人体防護に関する施策の信頼感を高めることができると考えられる」と述べている。

 これは要するに「無知な国民に行政が正しい情報を教えてやる」ことがリスク・コミュニケーションだと述べているのに等しい。従来の総務省(又は総務省から受託された団体)がこれまで実施してきた「行政から国民への一方向の情報提供」ではない「対話」の中身と言えば、せいぜい、講演会で「質疑応答」を行う程度である(しかも、主催者側があらかじめ選んだ質問にしか答えないこともある)。このような行為は、本来の意味のリスク・コミュニケーションから、かけ離れたものである。

 WHOは超低周波電磁界の環境保健基準で「国の関係省庁は、すべての利害関係者にとって納得のいく政策決定ができるように、有効で開かれたコミュニケーションのための戦略を採用すべきである。(13.5.1 勧告)」と述べている。つまり、当検討会のような偏った人選ではなく、すべての利害関係者のコミュニケーションによって政策を決定していくことが、真のリスク・コミュニケーションである。

 報告書(案)は、たびたびWHOの刊行物から引用し、これらを踏まえているかのような体裁をとっている。しかし、報告書(案)がWHOを引用するのは、「電波の利用の促進」という総務省の所掌事務の推進に有利なポイントのみであり、不利なポイントについて報告書(案)は、このように歪曲するのである(前述のEHCの予防的措置に対する姿勢も然りである)。

 リスク・コミュニケーションは、すべての利害関係者(発症者、支援団体も含む)の参加により、総務省から独立した環境で実施されるべきである。

 

6「5.3. 関係者の果たすべき役割(2)電波を利用する事業者・電波利用機器メーカの役割」について

 報告書(案)は、「携帯電話基地局に関する情報について、携帯電話事業者は、現在でも開設の際に必要な情報を周辺住民に説明しているところであるが、引き続きこの取組を継続することが重要である」と述べている。

 当会には、「ある日気付いたら、近所に基地局が突然建てられた」という相談が多く寄せられており、この記述は現実から乖離している。報告書案は、「開設の際に必要な情報を周辺住民に説明している」と述べた根拠を示すべきである。

 

三「第2部 電波の植込み型医療機器等への影響について」について

1「1.5. 第二世代携帯電話サービスの終了を踏まえた総務省植込み型指針の改正(3)改正後の状況」について

 報告書(案)は、「公共交通機関等での携帯電話等のルール設定については、各機関等において個別の状況等を総合考慮して定められるものであるが、その検討に際しては、最新の総務省植込み型指針が参考とされることが期待される」と述べている。

 総務省の指針は、植込み型医療機器への影響のみを検討しており、電磁波によるその他の健康影響や、電磁波過敏症、マナー等の問題を含めて、利用者の声を最も重視して検討すべきである。

以上


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