中央新幹線 リニアでない従来型車両が走る!?

 今、「リニア談合問題」が世上を賑わしています。リニア中央新幹線は2011年5月に実施計画が決まりました。時速500kmで浮上型リニアが約9割を占めるトンネル中心のルートを走る計画、と誰もが思っています。ところが、『選択』という月刊誌1月号に「リニアでなく、鉄輪走行の在来型新幹線を走らせる計画をJR東海はあきらめていない」という仰天する記事が掲載されました。『選択』という月刊誌は「三万人のための情報誌」と銘打ち、書店では販売せず読者に直接配送するルートで販売されています。新聞記者が自分の所属する新聞では書けない本音記事を匿名で書く、というのがウリです。「リニア中央新幹線という『伏魔殿』」という見出しの記事内容を以下紹介します。

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300X新幹線(Wikimedia Commons)

鉄輪型でも時速443kmを記録した300X型
 名古屋市内にある「リニア・鉄道館」にJR東海が開発したコードネーム300Xの新幹線が保存されています。この300X型は、1996年に東海道新幹線路線内で最高時速443kmを記録しました。この車両は、在来新幹線の高速化の実験のためでなく、「中央新幹線」で走行させる目的で開発されました。この事実はあまり知られていません。しかし、JR東海は今も中央新幹線に従来型の鉄輪式新幹線を走らせる構想を捨てていません。JR東海の葛西敬之名誉会長は、自著『飛躍への挑戦』で山梨実験線について、リニア計画が行き詰った場合は、「鉄輪系でいかざるを得ないことを考慮して」施設建設をしたと明言しています。

トンネル構造をみれば事実がわかる
 中央新幹線のトンネルはルートの約9割を占めるが、そのトンネルサイズは従来の東海道新幹線と同じサイズを確保しています。リニア車両は空気抵抗を抑えるため従来型新幹線車よりサイズは小さい。さらにリニアにはパンダグラフが必要ないため、本来ならトンネルは小さくて済みます。リニアの事業費が東京-名古屋間で5兆5千憶円もかかるのは、トンネル部分が多いためです。コストを下げるためならば、トンネルは小さいほうが合理的です。しかし、中央新幹線のトンネルは在来型と同じく7.7mの高さを確保しています。トンネルが小さければ、掘削コストも、土砂運搬コストも、土砂処理コストも抑えられるはずです。

勾配はリニア対応としては不可解
 超電導磁石によって車体を浮かして進むリニアの登坂性能は従来式より高い。その登坂性能は「60パーミル」と示されます。1千m進んで、60m上る勾配に対応できるという数値です。ところが、山梨実験線や計画されている本ルートの勾配は「40パーミル」に抑えられています。1千m進んで40m上る勾配に対応するということです。「40パーミル」は鉄輪式車両の高速営業限界値と言われています。従来型新幹線を想定内としていることの重要な状況証拠です。

カーブの緩さも証明している
 中央新幹線の計画路線のカーブは緩く設定されています。カーブの最少半径が東海道新幹線の3倍以上の緩さです。300Xに相当する超高速車両を投入すれば、すでに記録している443kmを超える最高時速を図ることができ、リニアの最高時速500kmに近づきます。

リニアの最大の欠陥はクエンチ現象
 JR東海の役員の中には「いまだに鉄輪が有力」と主張する人がいます。天皇といわれる葛西名誉会長がリニアを声高に主張しているから、「リニア本命」の流れがつくられているが、実際には社内の完全なコンセンサスは形成されていません。
 実は、リニアには致命的ともいうべき「技術的欠陥」が潜んでいます。「クエンチ」と呼ばれる問題です。
 クエンチとは、超電導電磁石において超伝導コイルの一部が超電導状態から常電導状態に戻る現象です。超電導とは、絶対温度(極低温)のマイナス269度くらいにすると電気抵抗がゼロに近くなることを利用して電流を流す技術で、MRI等にも使われます。そうするために通常ヘリウムガスを使いますが、なんらかの原因でヘリウムガスが漏れ、超電導から常電導状態になるのをクエンチというのです。クエンチ現象になると、電気抵抗が増大し電流の流れが急速に低下します。MRIではそのための対策をとっています。クエンチは旧国鉄の宮崎実験線でたびたび発生しました。葛西名誉会長は前述した自著で「山梨実験線では一度もない」としていますが、クエンチ現象がリニア中央新幹線で起きないという保証はありません。リニアで時速500kmで走行中、クエンチが起これば、壁に衝突する可能性があります。「浮上力」が低下するからです。JR東海は、万一に備えて「車体を支える補助輪が設けられている」としていますが、クエンチが起きた時の状況や対策についてほとんど公表していません。しかしクエンチ現象が「絶対起こらない」という確信がないから、「鉄輪型」を放棄できないのだといえます。
 リニアには3兆円の財政投融資が投入されます。「夢の超特急リニア」でなく、在来新幹線が車窓のないトンネルだらけのモグラ列車になるとしたら、国民はどう思うのでしょうか。【大久保貞利】

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