臨床環境医学会の報告などから

 第27回日本臨床環境医学会学術集会が7月7、8日に津市の三重大学で開かれました。同学会は化学物質過敏症(MCS)、電磁波過敏症(EHS)についての研究報告も多く行われてきました。今年の学術集会で報告された研究などの中から、電磁波に関連した主なものをご紹介します。

脳脊髄液減少症で起こる過敏症
 国際医療福祉大学熱海病院の中里直美さんらは昨年の集会で、脳脊髄液減少症患者の中に、電磁波や化学物質、音、光に過敏になる方が多くいることを報告しました。アンケート調査で、同症患者の50.7%にMCSの疑い、33.3%にEHSの疑いがありました(会報第107号参照)。
 今年の集会で中里さんらは、さらに実態調査を進めるため、「QEESI問診票」と「EHS問診票」を用いた調査結果を報告しました。
 QEESI問診票はMCS発症者の重症度を調べたり、またはMCSを発症者をスクリーニング(選び出す)ために米国の研究者が開発、北條祥子さん(早稲田大学)らが日本語版を作成し、信頼性・妥当性を検証したものです。EHS問診票は英国の研究者が開発し、やはり北條さんらが日本語版を作成、検証したものです。
 昨年11月から今年4月までの間に脳脊髄液減少症の治療のために同病院へ入院した患者45名について上記の各問診票で評価したところ、19人(39.6%)がMCSが疑われる基準値を超え、9人(18.6%)がEHSが疑われる基準値を超えました。これらは北條さんらが報告している、一般の人々の超過率(MCS6~8%、EHS3~6%)と比べて、いずれも顕著に高いものでした。
 また、問診票の自由記載欄には「脳脊髄液減少症を発症してから電気機器に触れると電気器具が壊れるようになった」と記述した患者が複数存在したとのことです。
 中里さんらは「今後とも、世界的に使用されているこれらの問診票を使用した調査を継続したい。また、脳脊髄液減少症の治療により過敏反応が改善するかについても評価しながら病態解明や有効な治療法について検討したい」とまとめていました。

小学生、電磁波環境と体調など関連
 近藤加代子・九州大学教授らは九州のある小学校の全校児童600名にアンケートを配布し、家庭内の電磁波・化学物質環境と子どもの症状との関連について解析した結果を昨年の集会で報告しました。
 今年の集会で近藤さんは、この調査の解析結果の第2弾を発表する予定でした。しかし、この日は西日本豪雨の日でした。新幹線は始発から東京・新大阪間の折り返し運転となり、航空の欠航も相次ぎました。近藤さんは会場へ来ることが出来ず、詳しいご報告が聞けなかったのは残念でした。
 発表内容のスライドのみ映され、家庭でスマホ等を使う時間と「ふらふらする」「胸が苦しい」「咳」との間にそれぞれ統計的有意な関係が見られたことなどが示されました。

学校環境と子どもの調査
 「いのち環境ネットワーク」の加藤やすこさんらは、学校環境と、過敏症の子どもの症状との関係についての予備調査について報告しました。
 過敏症の小学生6名(対照群7名)、中学生3名(同2名)、高校生1名(同2名)、高専生0名(同1名)、大学生1名(同2名)に、QEESI問診票、EHS問診票などに回答してもらいました。
 過敏症の子ども(患者群)が学校内で症状が出る原因となる化学物質の発生源は、ワックス・ウレタン塗装、改装・ペンキ塗装、画材、消臭剤、洗剤・柔軟剤などでした。また、同様に電磁波の発生源は、照明、周囲の携帯電話使用でした。
 また、対照群の92.9%が学校をほとんど休まないと回答したのに対し、患者群の27.3%がほぼ通学できないと回答しました。

EHS研究で注意すべきことは
 本集会では研究発表の他、シンポジウム、講演なども毎年行われています。今年のシンポジウム「環境過敏症患者の病態解明の現状と発症予防への取り組み-今、研究者は何をすべきか-」では、パネリスト4人のうち、北條さんと、本堂毅・東北大学大学院理学研究科准教授の2人がEHSに関わるお話をされました。
 このうち本堂さんは「電磁場不耐症:必要十分な研究を行うための諸条件」と題して講演しました(本堂さんはEHSではなく「電磁場不耐症」の呼称を用いました)。
 本堂さんは、電磁場不耐症の研究について、疫学研究は曝露と症状との間に有意な因果関係を認めるものもあるが被験者の思い込みバイアスを説得力のある形で否定できておらず、誘発実験は思い込みを排除しやすいが症状と曝露の因果関係を高い再現性で認める研究はない、とこれまでの研究を総括。また旧来の誘発実験では検出感度が悪く、一つの実験で統計的有意な結果を得るためには千人以上の被験者が必要であり、方法論を変えなければならないと述べました。
 一方で、ラジオ電波の影響で渡り鳥が正しく飛べなくなることは基礎科学の分野ではハッキリ分かっているので、少なくとも基礎科学の知見からは電磁場不耐症があってもおかしくはないと指摘しました。
 また、電磁場不耐症はその発症メカニズムが不明であるのだから、化学物質と同様の仮定、たとえば「用量反応関係」などをナイーブ(素朴、無警戒)に用いて解釈を行うべきではないと強調しました。用量反応関係は一般的には、生物に与える化学物質や電磁波などの用量・強度などが大きければ生物の反応も強くなり、逆に小さければ弱くなります。本堂さんは電磁場で用量反応関係が成り立たない場合はたくさんあるとして、一例として「電子スピン共鳴」を挙げました。この現象は特定の強さの静磁場と、特定の強さのマイクロ波が共鳴して起こる現象で、静磁場がそれより大きくても小さくても発生しません。本堂さんは、ヒトへの影響に電子スピン共鳴があると言っているのではないと念を押しつつ、共鳴をはじめ、高周波電磁波の侵入長など、電磁場について検討する際に不可欠な要素を挙げました。
 そして理工系研究者と、医学・生物系研究者が、互いの分野について一定の理解を得ることなどを、電磁場不耐症の研究を行う条件として挙げました。
 筆者は、電磁波の健康影響について検討する国の委員会などを傍聴する機会がありますが、その委員らは用量反応関係の考え方を当然の前提としています。また、臨床環境医学会に参加するような研究者であっても「自然の電磁波より人工電磁波が人体に有害であることはない」と発言するなど、電磁波の基本的な知識にやや欠ける方も見受けられます。このような状況が、EHSの研究がなかなか進まない一因になっているのかもしれないと、本堂さんのお話をうかがって思いました。

患者ブース(展示コーナー)設置

患者ブースの様子

 今年の集会では「化学物質過敏症(電磁波過敏症を含む)患者さんのためブース」が設けられることになりました。おそらく同学会初の企画だと思います。同学会が「医療関係者のみでない、他領域の人材を含めて幅広い学会を目標としてい」ること、しかしながら患者が研究者に混じって発表することは負担が大きいことから、患者が無理なく研究者との交流を図るため、学会に所属する研究者や専門家に知ってほしいと思っている内容を「患者の声」カードに記載し、患者会ごとにまとめて展示するというものでした。
 筆者も初めて知った患者会があり、その代表者の方などとお知り合いになることができました。【網代太郎】

患者ブースに展示された「患者の声」

 

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