スーパーシティと5Gの問題点は 会津若松市で学習会

 学習会「スーパーシティと5Gの何が問題か」が2月6日、福島県会津若松市の會津稽古堂で開かれ、筆者(網代)が講師を務めました。同市は「スーパーシティ」に立候補しており、これに反対する「スーパーシティ構想を考える市民の会」が主催。参加者は60名(会場42名、リモート18名)でした。リモートによる参加者の中には、やはりスーパシティ構想に立候補している静岡県浜松市の方々もいらっしゃいました。筆者は都内からリモートで講演しました。

「スーパーシティと5Gの何が問題か」=2月6日、会津若松市の會津稽古堂

 スーパーシティとは、個人情報データ利用ルールなどの様々な規制を緩和し、複数分野間でデータを連係して,AIやビッグデータなどの先端技術の活用により、行政手続、交通、医療、教育など幅広い分野で住民の利便性を向上させることをうたっている国の施策です。
 スーパーシティについては、以下の問題点が指摘されています。

  • スーパーシティの事業内容などは、特区担当大臣、首長、事業者などをメンバーとする「区域会議」が「住民合意」を経て決定するが、「住民合意」の方法は「各区域会議で決める」とされている。住民の意思(特にスーパシティに反対の住民の意思)が本当に反映されるのか不透明
  • スーパーシティの規制緩和は、国や自治体、企業が持つ個人情報や企業がもつ個人情報を「データ連携基盤」に集約することで「暮らしの利便性を高める」ことが目的。この「データ連携基盤」は、国や自治体にデータの提供を求めることができる。国は「個人情報保護法令に従い、必要な場合は本人の同意が必要」としているが、行政機関個人情報保護法は「公益に資するなど特別な理由がある場合、本人の同意なしで情報提供できる」とも規定。スーパーシティの場合はどうなるのか不透明だが、データを集約しないとスーパーシティの意味がないため、本人の同意なき情報収集が行われていく危険性

 これらの問題点の他に、スーパーシティでうたわれている「先端技術」には、第5世代移動通信システム(5G)も含まれるだろうから、スーパーシティに選ばれると5G整備も進んで住民の電磁波被曝が増えるのではという懸念もあり、今回の学習会も、そのような問題意識から企画されたようです。

5Gサービスエリアマップに衝撃
 この日の学習会で筆者は、電磁波とは何か、から始めて、これまで分かっている電磁波による影響、5Gの特徴・整備方針・規制、スーパーシティの問題点、私たちは何ができるか、などについて話しました。会津若松市はすでに「スマートシティ」に取り組んでいることから、スマートシティとスーパーシティの違いについても述べました。
 講演の中で筆者は、ドコモがウェブサイトで公開している5Gのサービスエリアマップを示しました。これは、参加者へのインパクトが特に大きかったようです。会津若松市の5Gサービスは1月現在ではミリ波のスポットが1カ所あるだけですが、7月末の計画を示したマップでは、市内中心部のかなり広い部分が5Gエリアになっているからです。同市が既に「スマートシティ」に取り組んでいることで、同市での5G展開が早まっているのかもしれません。参加者からは「5G問題が一気に自分のことになった」という反響がありました。

基地局は需要に応じて整備するはず
 スーパーシティと5Gの関係について、筆者は以下のように述べました。

  • スーパーシティになろうと、なるまいと、携帯電話は現行の3Gや4Gから、5Gへ切り替わっていく流れ
  • ただし、4Gまでは人口カバー率上げることを目指した基地局整備方針だったが、5Gでは「都市部・地方部を問わず需要の見込まれる地域での早期の5G展開の促進を図る」のが国の方針なので、スーパーシティを名目に携帯電波を多用する事業が始まる場合は、5Gが早めに整備される可能性がある
  • 携帯電波を多用するほど、電波が強い5G基地局が高密度に設置されていく可能性がある

図1 5Gの種類の比較

 図1は、「5G」の中にも違いがあることを示すために、筆者が作成して、講演で示しました。
 5Gが速いのは帯域幅が広いからです。道路が広いほど多くの自動車が高速で走れるのと同様の理屈です(図2)。一般的には帯域幅が広いほど通信速度は速くなります。そして、帯域幅あたりの電波の強さに大きな違いがなければ、帯域幅が広いほど電波は強いことになります。

図2 ドコモのウェブサイトより

 同じ5Gでも違いがあり、ミリ波は帯域幅がもっとも広くて400MHzあります。Sub6は100MHzです。一方、4G周波数を5Gへ転用した、いわゆる「なんちゃって5G」は、帯域幅が4Gのままなので速度は4Gとあまり変わらないと言われています。
 また、電磁波は周波数が高いほど、到達する距離が短くなり、直進性が強くなる(障害物を回り込む性質が弱くなる)ため、基地局を高密度に設置する必要があります。周波数が高いミリ波の5G基地局は高密度の設置が必要ですが、なんちゃって5Gの場合は4Gと同様の設置密度になるはずです。
 携帯事業者は営利企業なので、需要が少ない地域に強い電波を出す基地局を高密度に設置するようなムダは、原則としては行わないでしょう。つまり、携帯事業者がどのような5Gを整備するかは、その地域の携帯電波の需要の多寡によるところも大きいと思われます。

その事業に携帯電波多用は不可欠か
 スーパーシティーで携帯電波が多用されそうな事業の例として、筆者は以下を挙げました。

  • 「協調型」自動運転バス ⇒運行ルートおよび周辺の5G電波が強くなる可能性(「協調型」とは、司令所、他の車、道路施設などからの指示によって動く自動運転車。これに対して、自動車が自分で判断する自動運転は「自律型」)
  • 遠隔医療 ⇒医療機関内および周辺の5G電波が強くなる可能性。救急車も巻き込むなら街じゅうの5G電波が強くなる可能性
  • ハイビジョン防犯(監視)カメラ ⇒街じゅうに設置されれば街じゅうの5G電波が強くなる可能性
  • 観光地のAR(拡張現実)サービス ⇒観光地および周辺の5G電波が強くなる可能性
  • 他校との合同演奏など ⇒学校内および周辺の5G電波が強くなる可能性
  • その他

 上記のような携帯電波を多用する事業が行われれば、より出力が強い基地局がより高密度に設置されていく可能性が大きくなります。それはスーパーシティでなくても同じこどでしょう。自治体が、またはスーパーシティの事業主体が携帯電話の電波を利用する事業計画を示した場合は、携帯電波の利用が不可欠なのか市民がチェックし、有線(イーサネットなど)へ代替するよう求めていくことなどが必要になっていくと思います。
 余談ですが、会津若松市の会場の参加者の中に小学2年生のお子さんがいて、両親の間に座ってお絵かきをしていたのですが、「5G」と書いてその上に「×」と書いていたそうです。筆者のつたない話が子どもにも伝わったようで、うれしかったです。【網代太郎】

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