日本臨床環境医学会学術集会 オンラインで2年ぶり開催

 電磁波過敏症、化学物質過敏症などの診療や研究に取り組んでいる医師、研究者らによって発足した「日本臨床環境医学会」の第29回学術集会が、6月26日から8月27日までオンラインで開かれています。同集会は昨年6月に神奈川県内で開催予定でしたが、新型コロナ感染症拡大の影響で1年延期されました。さらに、第4波の感染拡大により、オンライン開催となったものです。学会での発表の中から、電磁波に関係する主なものをご紹介します。

第29回日本臨床環境医学会学術集会のウェブサイト

環境過敏を訴える成人患者の医療へのアクセス改善を目指した暫定診療ガイドライン試案

 電磁波過敏症(ES)、化学物質過敏症(CS)などの「環境過敏(症)」について、ほとんどの医療関係者が知らないか、または知っていてもどう対応して良いかわからないため、多くの環境過敏の患者が「医療難民」となっています。平久美子さん(東京女子医科大学東医療センター麻酔科ペインクリニック環境医学外来)は、環境過敏症患者が必要な医療を受けやすくするために、医療関係者や患者に適切な情報提供を行う「暫定診療ガイドライン」を作ることを提唱し、その試案を示しました。

環境過敏症の定義
 平さんは、自身が診療した33症例と文献に基づき、七つの臨床的な問いかけ(CQ=Clinical Questions)に沿ってまとめました。
 環境過敏症の患者は、医師から症状の訴えそのものを否定されたり、治らない病気だと告知されることにより、医療から疎外されることもしばしばです。患者の訴えを医療関係者が受け入れやすくするために、平さんは環境過敏症を「持続性あるいは進行性の化学物質、電磁場、(音波などの)弾性波などの刺激に対する知覚認識の障害」と定義することを提案しました。そのうえで平さんは「患者の知覚障害を機械で客観的に測定しようとする試みは無意味であることを慢性疼痛の診断の歴史が教えている。患者がどれくらいつらい(と感じている)のかが大切」と強調しました。
 環境過敏の患者は、併発している治療可能な他の病気への対応が行われずに長期間放置されがちです。個々の病態について可能な限り対処することにより、症状軽減や予後改善の可能性がある、と平さんは指摘しました。

「電磁波過敏症を早急に保険病名に」
 電磁波過敏症の治療に健康保険の適用が認められていないことについては「高周波電磁波には少なくとも熱作用があり、『耳がキンキンする』『耳が痛い』『頭頸部に熱感を感じる』という訴えには科学的根拠がある。こうした訴えはスマホの使い方に気をつけることである程度回避できる場合もある。厚労省におかれましては早急に保険病名とすることをお願いしたいです」と訴えました。
不安が症状を難治化させる
 平さんは、環境過敏症の患者の症状の特徴として「抑鬱、不安、睡眠障害、社会活動の困難、治療への依存または忌避など」を挙げました。これらの特徴は「実は、慢性疼痛の診療ガイドラインに示されているもの」だと述べ、環境過敏症の特徴と慢性疼痛の特徴がよく似ていることを指摘。なぜ似ているのかについては「不安が症状を難治化させる」という点で、両者が共通していることを図を示しながら説明。一方で「最初の診断時に、だれもが納得できるような明快な疾患の定義と、症状軽減のための医療介入、『良くなった人もいる』と伝えることができるならば、不安や恐怖が減り、軽快・回復の可能性が増加すると考えられる」とも述べました。

環境過敏の治療は総合診療的
 環境過敏の診断に際しての注意点としては、「化学物質や電磁場が生体に何らかの影響を与えるのは自明のことで、それぞれが自らの許容範囲の中で社会生活を営んでいる。しかし、許容量には個人差がある。その患者に限ってなぜ許容量を超えたのかを調べるのが診断の第一歩」と説明。その際、年齢相応のありふれた他の病気にかかっている可能性を常に念頭に置くことが大事だと強調しました。発症のきっかけが化学物質や電磁場であっても、その背後には、だれでもある程度の年齢になればいつ発症してもおかしくない病気が隠れていて、それを治療することで環境過敏の症状が良くなることがあります。平さんは、過敏症患者によくある症状と、その症状に応じた診断病名、及びその治療法の一覧表をスライドで示しつつ「環境過敏の治療には内科系、外科系をあわせた総合診療的な知識が不可欠。決して特殊な知識ではない。若い先生方の奮起を期待したい」とおっしゃいました。
 治療の最終目標は、生活の質と日常生活動作の向上であり、そのためには、環境からの化学物質および電磁場の刺激を減らすこと、生活習慣改善・運動療法・薬物療法等により「生理病理的変化」を改善すること、カウンセリングにより「心理社会的要因」への支援を行うことが必要であると指摘。それらを行うための「集学的治療(多分野・多職種の専門家が、共通の目標を念頭に参加する統合された多角的治療)」の必要性を強調しました。

慢性疼痛と環境過敏はよく似ている
 平さんが発表を通じて環境過敏症と慢性疼痛の類似性、共通点を繰り返し指摘したことが、たいへん印象的でした。日本ペインクリニック学会など、異なる医学分野の複数学会が共同して編集した「慢性疼痛治療ガイドライン」があり、ネットで公開されています。このガイドラインは、慢性疼痛とは「治療に要すると期待される時間の枠を超えて持続する痛み、あるいは進行性の非がん性疼痛に基づく痛み」だと説明しています。もう少しやさしい言い方として、慢性疼痛とは「特定の原因がなく、痛みが慢性的に続くものをいいます」という説明もあります[1]。
 平さんは、慢性疼痛治療ガイドラインと同様のものを、環境過敏についても作るべきと考えていらっしゃるのだと筆者(網代)は理解しました。ともすると環境過敏は「従来の医学的常識から外れた特殊な疾患」と捉えられがちですが、そうではなく、医療関係者がこれまで積み重ねてきた臨床や研究の知見に基づいて対応できることは少なくないという、大事な視点を明確にしてくださった発表だと思いました。

[1]倉敷ニューロモデュレーションセンター「慢性疼痛(神経障害性疼痛)とはどのような病気?」

シックハウス症候群と化学物質過敏症および電磁波過敏症の最近の動向について
—当院受診患者の検討から—

 小倉英郎さん(国立病院機構高知病院、大西病院)は、2000年10月~2021年3月に化学物質過敏症外来を受診した16歳以上の患者349名について、病型(シックハウス症候群(SHS)、化学物質過敏症(CS)、電磁波過敏症(EHS))、性別、年齢などの動向をまとめました。
 349名の病型は、CS単独が54.7%、CS+EHS(両方発症)が18.3%、SHSからCSになったのが12.3%、SHS単独が6.9%、SHSからCS+EHSになったのが3.2%となっていて、EHS単独の発症者は1.7%でした。
2011年からEHSが増える
 男女比は1対4.8と、女性が男性の5倍近くでした。
 初診時の病型については、新築やリフォームを主な発症原因とするSHS単独が2007年ごろから大幅に減りました。その代わりにCS単独が大きく増加。高濃度の殺虫剤、合成洗剤、接着剤、ヘアカラーなどに比較的短時間、曝露したことをきっかけに発症した方々のほか、特別なケースはなく慢性の経緯で発症したケースが見られたとのことです。
 筆者(網代)にとって特に印象的だったのは、CS+EHSの病型が2011年から増えていく傾向が見られたことです。
 今回の学術集会はオンラインなので、質疑応答もネット上に書き込む形で行われています。2011年からのEHS増加傾向について、先に発表をご紹介した平さんが「EHSが、スマホおよびパソコンの普及により増加してきた疾患であることが時系列できれいに示されています」というコメントを書き込んでいました。これに対して小倉さんは「貴重なコメントをありがとうございました。EHSの保険病名収載に関しては先生のおっしゃるとおりです。当学会としても何らかの発信をしたいものですね」と返信していました。
 ちなみに、総務省「通信利用動向調査」で、初めてスマートフォンの世帯普及率の数字が示されたのは2010年で、その数字は9.7%でした。翌2011年は29.3%に増加。2019年は83.4%でした。

世界共通問診票を用いた脳脊髄液減少症患者の症状・環境過敏反応に関する調査

 脳脊髄(せきずい)液減少症(CH)は、主として髄液(ずいえき)が漏出することにより髄液が減少し、そのため神経系の機能不全が生じ、頭痛、頸部痛、めまい、耳鳴り、視覚機能低下、記憶力・集中力低下、倦怠など多彩な症状が持続する疾患です。髄液が漏れる原因はいろいろありますが、交通事故などによる外傷で漏れる場合があり、また、意外に軽いけがでも漏れる場合があります。そして、CH患者の中には電磁波過敏症(EHS)、化学物質過敏症(MCS)を訴える方々がいらっしゃいます(会報第108号など)。
 日本調剤医療連携推進部の鈴木高弘さんらは、CH患者に対して、世界的に広く用いられているMCS問診票(QEESI)と、EHS問診票を用いて評価し、その結果を、同じ問診票を用いて北條祥子さんらがMCS、EHS患者、「一般人」などを対象に行った調査(会報第102号)と比較しました。これらの問診票は、人々が過敏症かどうかを見分ける調査(スクリーニング)や、患者が自覚している症状の重さを調べるために使われています。

脳脊髄液減少症患者の中の過敏症発症者は「一般人」の数倍以上の割合
 問診票でEHSの基準値を超えたのは、一般人の4.6%に対してCH患者は約5倍の27.4%、MCSの基準値を超えたのは、一般人の5.9%に対してCH患者は約8倍の49.3%、EHSとMCSの両方の基準値を超えたのは、一般人の1.2%に対して約20倍の23.3%でした。
 このことから鈴木さんは「脳脊髄液減少が、過敏性へ影響があることが示唆された」と結論。また、今後は症例数を増やしてさらに検討するとともに、脳脊髄液減少症の治療法であるブラッドパッチや薬物療法によって過敏症が変化するかも調べていきたい、としています。【網代太郎】

 

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