「九州中継塔裁判の記録」をまとめて

宮嵜周さん(編集委員会事務局)

記録本づくりの経緯
 今回、念願の携帯電話中継塔裁判の記録をまとめることが出来た。審理中の延岡裁判を除き、7件の中継塔裁判の記録である。
 このきっかけは、2011年11月に緑風出版の高須次郎社長から熱心に勧められたことである。個々には記録づくりの話しが出ている原告団もあったが、九州全体となると、延岡裁判が審理中であり、躊躇があった。
 この点については、弁護団連絡会の弁護士の助言を頂く中で、これまでの7件の裁判と延岡裁判の質的な違いの認識を明らかにし、延岡裁判については提訴の段階まで記述することで、延岡裁判の原告団・弁護団の了解を頂いた。
 記録本づくりは2012年1月から開始し、当初は、延岡裁判の判決前に発刊し、延岡裁判の支援になる本をつくろうとの意気込みで出発したが、記録本づくりはそんな生やさしいものではなかった。原告団で受け持った「第1部」の書き方を巡っても二転三転し、5月にやっと原告団連絡会に編集委員会ができて軌道に乗った。記録本が発刊できたのは本年6月で、ちょうど企画から1年半の期間を要したことになった。

この運動の原点に中村幸造さんの存在
 いざ、執筆準備の資料を集めてみて、沼山津・御領では、本訴を始める前の反対運動の資料が乏しいことが判明した。これを調べる中で、1996年に熊本で基地局建設反対が住民の中で大きな運動に発展した経緯が判った。
 本記録本の冒頭に「(1)熊本県内で大きな反対運動が起こった」と書き、「新大江地区の建設予定地の隣が偶然に電磁波問題の全国ネットワ-ク「ガウスネット」の会員だった。」と紹介しているが、このときの「大きな反対運動」の紹介が抜けてしまった。草案では、ガウスネット会員の中村幸造さんの努力で、反対運動が5箇所に広がり、当時の「九州セルラー中継塔建設反対ネットワーク熊本」をつくって各自治体交渉やパレードなどが繰り広げられたことを書いていたが、全体の字数がオーバーしたため、裁判に重点をおくという方針の下で字数の削減の際に大幅にカットしてしまった。その際に名前も落としてしまった。
 この部分は、いま思うと九州での基地局反対運動の原点でもあり、この部分だけはコラムとしてでも残すべきだったと反省している。

初めて経験した法廷闘争での戸惑い
 基地局建設反対運動では、自治体が住民と業者の間に入ったところでは、混乱を静めた所もあったが、ほとんどの自治体が業者の脅しに屈して適切な対応をとってくれず紛争が激化した。また、これを指導も助言もできない九州総合通信局の無能と無策も紛争を助長したと言える。
 このため住民は司法の判断を仰ぐ道を選んだ。業者の詐欺的な手法での建築確認の取得、住民への恫喝、暴力的住民排除行為、詐欺的な司法の悪用など、このような業者の理不尽な行為が許されるはずがない、と住民は思った。地元住民への企業の横暴は、国民主権の憲法に反するのではないか。裁判では勝てると思った。
 しかし、裁判ではこの争点では勝てないことが弁護士から告げられた。法律は企業に有利に作られていて、この争点だけでは闘えないとのこと。しかも、日本の裁判制度では、中継塔建設を止める理由の証拠を原告側が提出しなければならない。本来、電磁波問題の専門家である被告の携帯電話会社は何もしないでよいのである。ここでも国民主権の憲法が生かされていないことが判った。
 当初は住民も弁護士も電磁波の危険性についての知識も証拠も入手しておらず、電磁波問題については、住民も弁護士も裁判の中で学習が始まった。

世界の電磁波リスク研究と並行して進んだ中継塔裁判
 電磁波問題の学習には荻野先生の全面的な協力と支援をいただいた。国の電波防護指針などは企業に有利に作られていた。この論拠を崩すための証拠の諸文献はほとんど海外のもので、翻訳を必要とした。この点でも荻野先生に依拠するとともに、加藤やすこさんの協力支援が大きかった。
 その中で、世界的な携帯電話基地局研究の第一人者であるニールチェリー博士との出会い、そして意見書を書いて貰ったことが、九州の中継塔裁判を国際的な水準の科学裁判に引き上げたと思う。この英文の意見書の翻訳は原告が行なったが、そのため、荻野先生には監修でご苦労をお掛けした。詳しくは本書に譲る。
 また、九州の中継塔裁判での特徴は、各弁護団が弁護団連絡会に結集し、並行して進む世界の電磁波リスク研究の最新情報を、荻野先生を講師として学びながら審理を進めることが出来たことだと思う。

電磁波公害を覆い隠してきた正体
 この裁判の記録では、第1部・第5章に、裁判を通じて原告住民が学んだことをまとめた。これまで「九州/中継塔裁判ニュース」に掲載した報告や解説、当ネットワーク総会文書からのまとめである。
 電磁波の健康リスクに関わる日本の特異な対応を列記してみるなかで、日本政府は特に、超低周波電磁波の健康リスクに異常な反応を示しており、日本政府も関与し電磁波リスクを故意に隠そうとしている気配が随所に感じられた。そこで目に浮かんだのが、日本全国で住宅の上を走っている高圧送電線の存在。これがあるから電磁波の健康リスクを認められないのではないかと仮説を立てると、全てに説明がついた。
 とき正に福島原発事故により「原子力ムラ」と称される「政・官・産・学・メディア」の癒着が明らかとなった。この「原子力ムラ」が、高圧送電線等の超低周波問題にもそのまま当てはまることに気が付いた。元凶は、電力業界と癒着した経済産業省の旧「原子力安全・保安院」ではないか。この癒着構造が日本では常態化して電磁波行政をゆがめ、予防原則を認めず、電磁波公害を覆い隠してきた正体だと考えると辻褄(つじつま)が合う。
 あとは、「中継塔裁判の記録」をぜひ読んで頂ければ幸いである。(2013年7月20日記)


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