親子の健康を奪った電磁波について知らせたい

石黒貴子さん(東京都、電磁波研会員)

電磁波過敏症で自死を考えるほど苦しんだ状況から、ある程度軽快し、電磁波問題を広く知らせるために、ユニークな活動に精力的に取り組んでいる石黒さんに、ご寄稿いただきました。石黒さんの2人のお子さんたちも、健康影響を受けているとのことです。


ある日突然、蕁麻疹が
はじめまして、石黒貴子です。私は2022年夏、ある日、ノートパソコン「MacBook pro」を普段通り触っていたとき、腕中に酷い蕁麻疹が出来、当初使っていたスマホ「iPhone13」でも使用時手の甲に蕁麻疹が出ました。何度も同じように蕁麻疹が出たため、iPhone13はauに事情を説明してiPhone SEに変え、MacBookは使用をやめました。そこから重度の電磁波症(電磁波「過敏」症という名称に違和感を感じるため、あえてここでは電磁波症とします)となり、急速に身体中に異変が起こりました。そして日本では電磁波についてのリスク管理と対策について殆ど進められていなかった事を知りました。以来、国内外の研究論文や資料等で学び、電磁波研や消費者団体等の各会に参加をさせて頂きながら、ブログや漫画等(ペンネーム・にゃん子石黒、Twitter有り)を通して、この問題について広く知って頂けるようにと周知活動をするようになりました。

医師に電磁波の資料を見てもらう
MacBookからは距離を置いて蕁麻疹は出なくなったものの、身体の状態が急速に悪化して、昨年秋には1ヶ月半程頭痛と、酷い鬱状態が続くようになりました。毎日動く事が殆ど出来ず、いつもはサクサク返信できるような連絡事にも、1日ひとつ返すのがやっとで、ふとした時死を選びそうになるほどの鬱状態とでどうにもならなくなり、Dropbox(ネット上にファイルを保存できるサービス)に研究資料や論文等をまとめて、そこに簡単にアクセスするための「QRコード」を作り、日本赤十字社医療センター(東京・広尾)と、都立広尾病院の先生方にみて頂いた上で、対応をして頂きました。資料をこの形でまとめたのは、電磁波の影響について当初は医師に懐疑的な態度をされたので、適切な対応をして頂くことで医療難民となるのを防ぐためです。
(医療機関に提出した資料)
MRIでは何も異常は出ませんでしたが、資料をご覧になった日赤の先生は手探りながらも漢方薬を処方する等、今思うと適切な判断をして下さったと思います。葛根湯ひとつで重度の鬱状態が一週間程度で消えていきました。広尾病院の先生もやはり漢方薬をすすめ、同じような反応と見立てでした。あの時神経内科や精神内科等で抗うつ剤等を処方されていれば、症状は悪化の一途を辿っていたと思います。
ここでの問題点は二つあります。一つは電磁波症のケースが医療業界で殆ど共有されていない事。電磁波の影響を視野に入れられる医師が少しでも増えれば、診察の際理解を得られず色々な科をたらい回しにされた挙句まともな診察をして頂けない電磁波症の方も減るのではないかと思います。
もう一つはこれだけの資料を用意しないとまともな診断、診察をしてもらえず、自分の身を守れず、周囲からの理解も得られないという事。重い症状に苦しむ中、もともと素人だった一般人が電磁波の性質(電場、磁場、高周波)を理解して、どれにどのように影響を受けているかを正確に導き出し、周囲からの理解を得る為だけでなく、多数のデマや詐欺商法等から身を守る為、研究論文や国内外の動向等を元に、可能な限り適切な内容を自力で得る事は、大変困難です。
本来これは政府と企業の仕事だと思います。これだけ電磁波による被害が広まっているのであれば、その研究を、多くの被害当事者達が研究協力者として参加した上で、「有害である側面からの研究」を徹底し、ある程度の成果が出るまでの間は、予防原則に基づいたリスク管理の見直しをしていくのが、国民の健康のためであり、日本経済のためであり、本来の政府の仕事です。

高周波電磁波への対策
さて、私が昨年夏に症状を発症してから、原因と思われるMacBookから距離を置く事で症状は少し軽減したものの、根本的な解決にはなっていませんでした。葛根湯で頭の症状は改善しましたが、スマホを使っていると辛い事がありました。使用開始30分もすれば頭がいたくなり、1時間もすればその後2~3日は寝込みました。その時私はまだ電磁波というものをふわっとしか理解しておらず、まさか電波(高周波)が、最も大きな影響となっていた事は想像もしていませんでした。それに気がついたのは、電磁波の性質を学び、測定器を持つ様になってからでした。そこから有線LANを使うようになり高周波を遠ざけ、低周波対策として方々アースを取り、高周波遮蔽のためのシールドクロス等を用いる等して、影響を受けずに済むよう周辺環境をいちいち測定器(EMF-390)で測り、やっと通信やMacBookを再び使える様になりました。

2人の子供にも異変
実は、私に症状が出た2022年夏よりも前から、私の2人の子供建にも「異変」が起きていました。当時は、電磁波の影響だとは、まったく思っていませんでした。
2020年の春、自宅から徒歩5分のマンションに、クリエイターである私のアトリエを移転、5月頃にMacBook proを購入しました。この時点では下の子は元気に登校。学校では何の問題もありませんでした。しかし、秋頃から、学校に行きたくないと言うようになってきました。鼻血や嘔吐が増え時には癇癪を起こすようになり、環境等の変化によるものかなと区にも相談をして色々な支援制度を利用しながら子供と向き合いました。上の子は肌に少し赤みや痒みが出るようになり時々皮膚科に行きました。
とにかく下の子が重症だった為、学校に行きたくない時はそれでいいし、何か好きなことをやってみる?とすすめ、バレエを始めて、楽しそうに取り組みました。癇癪や不登校は、今思うと仕事が立て込んでいて頻繁にMacBookを使う時期と重なっていました。この時私は、子供達の中で少しづつその影響が取り返しのつかないことになるとは想像もしていませんでした。
2021年末あたりには、下の子は自分で好きとはじめたバレエも行かなくなりました。この時から上の子にも変化が見られるようになりました。普段温厚で朗らかだったのに、時々苛立つようになり、学校でも普段は気にならないことを過剰に気にするようになりました。
2022年上旬には、上の子も「私も学校に行きたくないと思う時がある」と言うようになり、この時バレエは上の子も下の子も行けなくなっていました。
冒頭に書いた通り私が酷い症状を発症した同年夏頃には、子供達の取り柄の活発さや好奇心、玉のような肌はその白さを失っていき、上の子はアトピーのようになって、二人とも共通して皮膚は痩せ弱くなり、子供特有の肌の貼りや輝きはなくなっていきました。それ以降、これまで出来ていたことが徐々に出来なくなっていき、理解できていたことも不明瞭になっていきました。
今では、電磁波の影響から徹底的に遠ざける事で、癇癪や落ち着きの無さ等はなくなりましたが、まだもとの子供達に戻ってはなく、「後遺症」のような症状に悩まされています。一連のこの流れは、「電磁放射線障害」と言った方が、もっとわかりやすいのかもしれません。
当初私は仕事が立て込んでいる時は、アトリエで寝泊まりして、子供達も常に一緒でした。後に測定器で色々と測ってみると、家の中は全体的に壁から常に100V/m前後の電場が生じていました。寝室では斜向かいの建物の携帯基地局からの高周波が、低い時で2~5mW/m2(0.2~0.5μW/cm2)、高い時では10~15mW/m2もの数値が常に出ていました。アトリエではWi-Fiから30cmくらいのところで100~300mW/m2、距離を置いたとしても、部屋のソファ等一番寛ぐようなスペースで常に2~5mW/m2ありました。Wi-Fiを通して重いデータを扱うと、部屋中もっと高い数値になります。電磁波研の大久保さんの本の中にある、発症者にクリエイターが多い、と言う原因の一つかもしれません。日頃から画像等重いデータを扱う事が多く、保存のためにネット上にアップロードする事もあり、そのような作業をしている間中、子供達も影響を受けていた事になります。
電磁波によるダメージは、階段を降りていくようなもので、症状も、その階段のどこの段階にいるかで、回復までに要する時間と回復度合いが変わるのだと思います。電磁波による健康影響として発がん性が取り上げられる事が多いですが、それだけではなく、過剰な酸化ストレスが起きて様々な深刻な症状が出ると言われています。
私が経験した事を元に仮説します。仮に、ダメージを受けて体が大きく変化をして行く状態を「減退期」として、体がある程度落ち着いてきた頃を「安定期」としたとします。この減退期では、体の中で受けたダメージが、いよいよ現状の体のままを保っていられなくなっている状態で、微弱な電気や電波等、あらゆるものに敏感に体が反応をするようになっている状態、と仮定します。それは全身の痛みであったり、頭痛であったり、体感であったり。原因を遠ざけようとするほど、周囲からの理解が得られにくくなるという社会的悪循環にも陥ります。
次に、安定期では、一旦体の変化が落ち着いてくると、減退期で経験したほどの酷い症状は軽減していく、と仮定します。かわりに、その時の酷い体験を忘れる事が出来なくなっているので、本来ならそこまで体が敏感に感じ取っていないかもしれない対象にも敏感に反応してしまう事もあります。これがいわゆる「ノセボ」とされてしまう所以だとすれば、「トラウマ」と言い変えた方が正しいと思います。

漫画について
この会報に同封していただいた「ELECTRO SMOG 副流波の巻」は、タバコの副流煙の前例をもとに描き、今月発行の日本消費者連盟会報にもご紹介頂きました。
今やどこにでも漂う高周波電磁波による影響を受け具合を悪くした、星をキャラクターにした「トロ」が、「嫌波権」を主張する経緯を描いたお話です。
なぜ高周波に悩むのが星なのかというと、高周波の影響は、その人の置かれている環境や、どれだけの時間、どれだけの強度、どれだけのデータ量で高周波を受け続けていたか、という事に依存していることを表現したかったからです。星は希望の象徴としていつもお空に浮かんでいるので、携帯基地局の影響をいつも受け続けています。携帯基地局の高周波は、場所によってとても強い数値を出しています。いつもキラキラにこにこ輝いていた星のトロは、この影響を受ければ受けるほど、輝きを失って、苛立って、やがて元気がなくなっていきます。トロがまた輝きを取り戻し元気になれるように、友人のエレックがいつも測定器を持ち歩きながらトロを守り、仲間たちと冒険しながら電磁波に関する色々な情報を得て、時には戦い、解決に向けて歩みをすすめていきます。

電磁波研の活動として参加した、総務省・厚労省の方々とのお話の場
私自身がWi-Fi使用に対するリスクを身をもって知った上、先月、病室Wi-Fi協議会に対する助成金についての質問及び意見交換の場として、衆議院議員の大河原まさこ先生同席のもと、総務省と厚労省の人達4名と、私を含む電磁波研の4名で開催された会に参加させて頂きました[編注:会報前号参照]。当事者としてのお話もさせていただいたのですが、その前にまず「皆さんは、『電磁波』と聞いて、何を思い浮かべますか?」とご質問をさせて頂きました。誰も答えることが出来ませんでした。そこで、簡単に電場、磁場、高周波のご説明をさせて頂き、測定器をお見せして、「これを持ち歩きながら、外では高周波数値が出来るだけ低い場所を選び、室内では数値をゼロにするようにしながら過ごしている」との旨をお伝えしました。
また、担当の一人は、こういった話(高周波電磁波に悩む人たちの話)を聞いたことが無い、とも仰ったのですが、もう20年も前から携帯基地局や電波塔の関連で、既に健康を害している方々の事象が存在し、2007年には国会で電磁波過敏に関する保険適応や救済措置、対策等が請願され、2012年には日本弁護士連合会も、各省に対して意見書を提出する等している件に対して、総務省内部でその共有がきちんとなされていなかった、という事を浮き彫りにしました。
担当の方が、聞いたこともないというその内容について、総務省では、「本検討会では、電磁過敏症に関して、電磁界の人体への影響について客観的・科学的に実態を捉え、確かな科学的根拠のあるデータを、関係者に広く提示していく努力を続けていくことが必要であると考えています。」等と、一連の電磁波についての市民からの様々な声をまとめて公的にレポートをしています。
若手の方々にそうした一連のやりとりの流れが伝わっておらず、総務省内部での各関連部署で把握し切れていないのだとすれば、国民の健康を預かる立場である各省における体制そのものが、現状では機能していないという事になります。
総務省としては、国内の研究そのものが、日本の環境がとても小さな島国であるという事に見合った独自の研究が進められていないという事を知らず、審議会などに全ての判断を委ねているために、健康被害の報告があったとしても、右から左へと流していかざるをえないのかもしれません。けれども私達は税金を払っているのですから、どのような考えのもとでも、少なくとも「電磁波過敏」をうったえる人々の事象に対するその原因追求と、一般におけるリスク回避としての対策を練っていく義務があります。また、もし現段階での研究・検討されている内容そのものに改善されるべき課題があるのだとしたら、その軌道修正をこの件に関わる全ての省の全関係者がそれを行わなければなりません。
普通に暮らしていれば、殆どの人達が、総務省が安全であると見立てている事柄を、なんの疑いもなく信じています。総務省の検討会という権威が必ずしも正しいとは限らないことを今一度見直し、検討会もまた、当事者一人一人の状況分析を丁寧に行った上、検討内容に反映させていかない限りは、今後も思いがけない形で体を壊し、生活が一変してしまう人達が増え続けていくことでしょう。

石黒貴子について(自己紹介)
クリエイターとして出版、国内外での出展等の活動を行う。電磁波症となってからは、半年かけて学んだ事を生かし、民間による一級電磁波測定士の資格を取り勉強会や民間住宅の測定・アドバイス、啓蒙活動等を行なっている。
Adieu l’Electro Smog/電磁波測定・アドバイス
エレクトロスモッグシンポジウム/啓蒙活動ブログ

Verified by MonsterInsights