第31回日本臨床環境医学会学術集会(2023年6月24、25両日)での発表から、電磁波に関係するものをいくつかご紹介します。
児童生徒の環境過敏に関する全国規模の実態調査を行うにあたっての予備的な調査
永吉雅人さん(新潟県立看護大学)らはこれまで、同県上越市の全小中児童生徒を対象とした調査を行い、小学1年生から中学3年生まで、学年が上がるにつれてMCS(化学物質過敏症)が疑われる児童生徒の割合が増えていることを確認しています。これを踏まえて、全国的な実態調査を行うにあたって、質問項目ができるだけ少ない問診票(アンケート)でMCSとEHSの疑いの有無を評価するための調査を行いました。従来の問診票はMCSで50項目、EHSは57項目ですが、それぞれから選んだ特定の3項目ずつに絞ってもMCSとEHSの疑いの有無を高い精度で評価できることが分かったとのことです。
また、調査の対象は児童生徒ですが、問診票は保護者に回答してもらうことを想定しており、保護者がMCSやEHSを知っているかどうかによって調査結果に影響が出ないかを確認しました。上越市での調査結果について、MCSとEHSについて「よく知っている」「知っている」「少しは知っている」「知らない」保護者ごとにそれぞれ集計したところ、学年が上がるにつれて疑いのある児童生徒が増えるという傾向は変わらないことが分かりました。
なお、2010年の調査に比べて、2017年の調査ではMCS、EHSとも「よく知っている」「知っている」保護者の割合が減っており、永吉さんは「現在は、保護者によるMCS、EHSの認識は、さらに低下しているのでは」と推測していました。
中枢神経感作症候群との関係
MCS、EHS、線維筋痛症、慢性疲労症候群などは関連する疾患であると以前から言われています。これらの解明されていない難治性疾患は、中枢神経感作が病態に関与しているとして、中枢神経感作症候群(CSS)として一括りにする概念が提唱されています。北條祥子さん(東北大学大学院歯学研究科)らは、中枢神経感作を評価する問診票を使って2022年3月、MCS141名、EHS341名を対象に調査し、MCSで53.6%、EHSで56.7%が問診票の基準値を超過し、他のCSS患者と比べても高率だったとのことです。
難治性喘息などとの合併
難治性喘息(BA)と診断された患者の中には、MCSやEHSの疑いがある人が一般人より多いことを、北條さんらは報告していました。今回は、MCSとEHSとで臨床所見を比較した調査を発表しました。対象者は2012~2015年に国立病院機構相模原病院で喘息と診断された100名。MCSの疑いのあるグループは、そうでないグループよりも、総IgE抗体が低い傾向にあり、MCSを合併したBA患者は、IgE抗体非依存性BA患者が多いことが示唆されました。逆に、EHSの疑いのあるグループは、そうでないグループよりも高い傾向があり、MCSとEHSの相違点が確認されました。
また、MCSの疑いのあるグループは、そうでないグループに比べてアトピー性皮膚炎と食物アレルギーの合併が統計的有意に高かったとのことです。EHSの疑いのあるグループではこれらの有意差が確認されなかった一方で、薬物アレルギーの合併が有意に多かったとのことです。