リニア中央新幹線 環境影響評価準備書 どこかおかしいこの国のリニア計画!

 JR東海は9月18日、リニア中央新幹線の「環境影響評価準備書」を公表しました。同時に、品川―名古屋間の全長286kmの詳細なルートと具体的な駅の場所、仮駅名も公表しました。2027年に「東京・品川―名古屋間」を先行開業し、2045年には新大阪まで延伸させるとしています。環境影響評価準備書の内容は、肝心な車内での電磁波発生量を出さないことをはじめ、環境影響評価の名に値しないお粗末なもので、当研究会は、準備書に対する「意見書」を提出しました。

リニア計画のこれまでの経緯
 時速500km以上で走行するリニアモーターカー構想は、国鉄(日本国有鉄道)時代の1962年から研究が始まりました。1997年にJR東海が山梨県に長さ18.4kmの実験線を完成させ、その10年後の2007年にJR東海が建設費を全額自己負担で賄うと表明したことを受け、2011年に国がリニアの建設指示を正式に出し、計画は実質的に動き始めました。2011年6月に「環境影響評価配慮書」の縦覧が行われ、同年9月に「環境影響評価方法書」の縦覧が行われました。それに伴い58回の住民説明会が実施されました。しかし、住民説明会は具体的な計画内容の説明が行われず、実にお粗末なものでした。たとえば「走行中の車内での電磁波量はどうか」「地下40m以上の大深度で事故が起きた時の対策は十分か」「南アルプスを貫通する工事で大水脈を破壊した場合の環境破壊影響をどう考えるのか」等々の具体的で重要な疑問に応える資料は出されませんでした。
 そうした経緯の下で9月18日の準備書公表はなされたのです。
 今回の特徴は「リニアの詳細ルート」が発表されたことです。

詳細ルートの公表
 リニア新幹線は最終的には2045年(32年後)に品川と大阪を結ぶ計画ですが、先行計画として2027年(14年後)までに「品川―名古屋間」286kmを最速約40分で結ぶ、としています。先行計画の「品川―名古屋間」全長286kmのうち86%の246kmは地下を走ります。ルートは品川(東京都)の次に橋本市(神奈川県)、以下甲府市(山梨県)、飯田市(長野県)、中津川市(岐阜県)で途中駅は4つです(1頁の図参照)。
 工事費は品川―名古屋間で5兆4000億円かかり、大阪まで延伸すると総額で9兆300億円になります。都市部などのルートは大深度40m以下の地下になります。大深度地下だと土地所有者への補償が不要なので用地所得が容易になるからです。最高時速は505kmで、品川―名古屋間を1時間に上下各5本運行させるとしています。うち4本はノンストップで所要約40分、残り1本が中間駅に停まる各駅で所要は72分です。リニアは1編成16両で約1千人を運ぶことを想定しています。料金は品川―名古屋間1万1500円でのぞみより700円高く、大阪までだとのぞみより1000円高に設定するとしています。ただし、86%がトンネルで、地上走行もほとんどがコンクリートの防音フードで覆われるため「車窓」は楽しめません。

ドイツ方式と違う超電導リニア方式
 JR東海のリニアは独自の日本方式を採用しており、現在上海で採用されているドイツ方式と異なります。その違いは、日本方式が「超伝導磁石」を使うのに対し、ドイツ方式は通常の「常伝導磁石」を使います。マイナス269℃になると「超電導現象」が生じ、電気抵抗がゼロになるという超電導技術を採用したのが日本方式です。具体的には、ニオブチタン合金という超電導材を使用し、液体ヘリウムでマイナス269℃まで冷却することで超電導状態を作り出します。そのため日本方式は車両を10cm以上浮上させ走行させます。ドイツ方式は「トランスラピッド方式」ともいいますが、常電導なので1cm程度しか浮上しません。したがって日本方式では最高時速581kmまで出せますが、ドイツ方式は430kmが限度です。だが、その分日本方式はコストがべらぼうに増えますし、電磁波量もドイツ方式よりはるかに強まります。なぜ、このような方式をJR東海が採用したかといえば、地震国家の日本で1cmしか浮上しない常電導方式を使えば地震で軌道が歪み車両と軌道が接触する事故の可能性が高まるからです。原発もリニアも本来地震国には不向きは技術なのです。地震による事故の可能性をなるべく低くするかわりに電磁波発生量が大きい方式を採用せざるをえなかった、というわけです。

消費電力は新幹線の3倍
 リニアのピーク時の消費電力は1本当たり約3.5万kWです。これは東海道新幹線の約3倍です。JR東海は「新幹線でエコ出張」と環境に優しい企業を売りこんでいますが、原発が停止中の日本で電力不足が懸念されている時代に逆行するのがこのリニアです。JR東海の山田佳臣社長は9月18日の記者会見での記者の追及に対し「このまま電力のない状態で(日本が)衰退していくとは思っていない」(朝日2013年9月18日)と原発再稼働に期待を寄せる発言をしています。

南アルプス大トンネル地域はメランジュ地層
 大深度地下走行のリニアですが、とりわけ最難関といわれるのが、南アルプス(赤石山脈)を貫通する約25kmの超ロングトンネルです。この地域は「メランジュ」と呼ばれる地層です。メランジュとは、「地層として連続性がなく、細粒の破断した基質の中にいろいろな大きさや種類からなる礫・岩塊を含むような構造をもった地質体」で、崩れやすく水が出やすい特徴をもちます。JR東海もこうした事実をつかんでおり、一時は迂回ルートを検討しましたが、「より直線的で時間短縮が見込まれる」というコスト優先思想から現ルートに変更したのです。
 リニアトンネル工事は「シールド工法」で行います。シールド工法とは、巨大ドリルで堀り進め、同時に掘った穴の壁をコンクリートで固めるというやり方です。
 このやり方では、①南アルプスの大水脈を分断する、②トンネルの周辺はコンクリートで固めるが、周辺全体がもろいと安全性は確保されにくい、③掘削して出てきた莫大な残土の処理が不明確、等々の問題が生まれます。実際残土については、長野県内の残土処理場がいまだに確保されていません。南アルプスのトンネル工事だけでも長野五輪の工事で発生した量の約4倍の950万m3にものぼる残土が発生すると予想されています。長野県在住で60年以上南アルプスを踏破してきた地質学者松島信幸さんは、新聞紙上で「自然に対する思い上がりに他ならない。無謀な計画だ」(朝日2013年9月18日)とJR東海の姿勢を批判しています。
 誰もが、巨大地震に襲われたらリニアは大丈夫だろうか、と心配しますが、「トンネルや高架橋などの構造物も全て阪神・淡路大震災級の揺れに耐えるよう、基準に基づいて設計されています。リニア新幹線には脱線という概念がそもそもないんです」(週刊ポスト2013年10月11号)とJR東海は豪語します。彼らの「豪語」は当てになりません。阪神・淡路大震災は新幹線始発前の午前6時前だったから悲惨な事故が起きなかったにすぎません。福島第一原発事故も事故発生前は「心配いらない」と東電も国も言っていました。そのくせ、9月18日の記者会見で山田JR社長は「技術面については工事を始めてみないとわからない」(同週刊誌)と弱気な発言をしています。

事故発生時の避難は大丈夫か
 たとえ脱線・衝突といった大事故でなくても、停電等の事故でリニアがトンネル内で停車することは十分想定できます。事故があった場合は、乗客は車掌らの誘導で約5km毎に設けれる階段やエレベーターのある非常口から地上に脱出します。
 しかし、一つにはリニアには運転士はいません。すべての運行は指令室に集中されているからです。したがって車掌がリーダーになります。二つにほとんどが大深度地下を含む地下なので脱出に時間がかかります。南アルプスの大トンネルは深いところで地表から約1460mも離れた所にありますから、脱出は相当困難です。三つに、乗客の中にはお年寄りや小さな子ども、あるいは身体的障害、パニック症候群の人等々、様々な人がいます。そうした多様な乗客約1千名が地表まで無事たどりつけるかとても不安です。大深度地下を時速500kmの超高速鉄道を走行させるという発想そのものが、安全性と矛盾するのです。

走行中の車内電磁波量を隠し続ける
山梨リニア実験線における実測値と予測値の比較 これまでの環境影響評価配慮書や環境影響方法書でも、リニア走行中の車内における電磁波量をJR東海は公表していません。今回の環境影響評価準備書でもふれていません。車外の車両から離れた地点での電磁波量を示すだけです。リニアは直流磁場ですが、走行中には交流磁場が発生します。その値がドイツ方式と違って日本方式が非常に大きいことは構造からいっても当然です。だからこそJR東海は「隠し続ける」のだと思いますが、あまりにも不誠実な姿勢です。「列車の走行に係る磁界は、山梨リニア走行結果に基づき予測した結果、国の定める基準値よりも十分小さい値になると予測しています」(環境影響評価準備書のあらまし)では疑問に答えたことになりません。なにしろこの国の基準値は「2000mG」という人を小馬鹿にした値なのですから。

かけるべきは既存路線の安全対策コストだ
 国がリニアの建設指示を出した根拠は、「JR東海が国の支援を求めず全額自社の自己負担で賄う」とした点にあります。ところが、9月18日の記者会見で山田JR社長は5兆4千億円という巨費を投じる事業の収益性に関して「リニアだけでは絶対にペイしない。新幹線の収入で建設費を賄って何とかやっていける」(毎日2013年10月30日)と答え記者たちを驚かしています。JR東海は民間営利企業です。それが採算を無視してリニアを建設するというのです。東海道新幹線の収益は今後自然劣化が進む東海道新幹線の安全対策に振り向けるべきです。いまでも高速道路のトンネルで天井落下事故が起きたりして、人々は不安を感じています。新幹線でも同じような事故が起こらないという保証はありません。それを問題が多いリニアの方に収益を振り向け、それでいて「リニアだけでは絶対にペイしない」というのでは、旧国鉄や日本航空のように税金投入を将来的には考えているのかと勘繰りたくなります。

当会は準備書に対し意見書を提出
 環境影響評価準備書は東京都、神奈川県、山梨県、静岡県、長野県、岐阜県、愛知県の1都6県ごとに作成され、それぞれが約1800ページでそれに関連資料がつけられ、合計すれば数万ページに及びます。しかし、「車内での電磁波量測定値」「車内での騒音値、低周波音値」「事故の際の対策」「残土処理対策」等々、重要な問題点については、記述なし、あるいは不十分な記述、で終わっています。これで住民説明会を各所で開いても、「準備書で十分説明をつくしています」という木に竹を接いだような答弁しか返ってこないのが目に見えるようです。
 電磁波問題市民研究会は今回「意見書」をJR東海に提出しました。リニア新幹線は安全性、環境破壊、コスト問題等々、国民的に議論していかねばならない問題です。【大久保貞利】

電磁波問題市民研究会が提出した意見書の内容

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