携帯電話電磁波の安全性に関する動向 :2013年のレビュー

J.M.モスコヴィッチ(米・カリフォルニア大学バークレイ校)
訳・上田昌文さん(NPO法人市民科学研究室代表)

 以下は個人で運営されている「電磁波の安全性を問う」と題した(Electromagnetic Radiation Safety、副題には「携帯電話、Wi-Fi、スマートメーターによる電磁波曝露の健康影響と、その潜在的な危害を低減するための方策」とある)ホームページの最新記事「Cell Phone Radiation Safety in 2013: The Year in Review」を翻訳したものです。このサイトの運営者は、カリフォルニア大学バークレイ校の公衆衛生部に属するモスコビッチ(Joel M. Moskowitz)博士。彼は公衆衛生部で、「家族ならびにコミュニティ健康センター」のセンター長(Director and Principal Investigator, Center for Family and Community Health)を務めています(参照)。このサイトや業績一覧で見る限り、非常に幅広く精力的に公衆衛生分野で活動している、今注目の研究者であるように思われます。[上田さん]

 2013年は携帯電話や無線周波数の電磁波についていかなる健康リスクがあるのかを探る研究や、それに関連してどんな政策が打ち出されたのかという点で、重要な進展がみられる年となった。主だった研究と政策には次のものがある。

・携帯電話やコードレス電話を25年以上使用することと脳腫瘍のリスクが3倍になることの相関が見出された。
・10年以上携帯電話を使用した女性は、聴神経腫瘍、すなわち脳と耳を結ぶ神経に腫瘍を発症する率が2倍半になる可能性が高いこと。
LTEわずか30分で影響
・第4世代携帯電話であるLTE(訳注1)に30分間曝露することでヒトの脳がどちらの側においても活性の変化が生じること。

※訳注1
 スマートフォンや携帯電話などで使われる新しい高速モバイル通信技術の名称で、本来は3G(第3世代)と4G(第4世代)の中間に位置する規格ということでWimaxと同じ3.9Gに分類されるが、最近では4Gに含めて使われるようになってきている。Long Term Evolution(ロング・ターム・エボリューション)の略で、「長期間の発展(を目指した通信技術)」くらいの意味合いだと思われる。

・血液の鉛濃度がわずかに高めである子どもでは、携帯電話を使用している子どもとそうでない子どもで比較すると、使用している子どもの方が注意欠陥多動性障害(ADHD)を発症するリスクが高くなることが判明した。携帯電話累積使用量からADHDの予測が可能である。
・17歳の青少年を対象に携帯電話電磁波の曝露について何らかの公的な規制を設けることに、米国連邦通信委員会(FCC)が関与しなければならないことになった。
・米国小児科学会はFCCに書簡を提出し、携帯電話やその他の無線機器から放射される電磁波から子どもの健康を守り安心して暮らしていくための規制を採用することを求めた。消費者が実際に携帯電話を購入する際に自身でしっかりと判断して意思決定できるよう、十分な情報を提供することもその一つである。
・米国政府は、FCCの議長に代表に、携帯電話業界の元チーフロビイストであるトム•ウィーラーを任命したが、そのことで人々の間には、現在採用されている携帯電話電磁波に関する時代遅れで不十分な規制が、もっと強められるべきなのにFCCがそれをやらないのではないか、という懸念が高まってきている。
・471ページから成る世界保健機関(WHO)の報告書(※訳注2)が公表され、高周波とりわけ携帯電話からの電磁波がガンを引き起こすことについて、ヒトと実験動物の両方で現時点において「限定的ではあるもののそれを示す証拠が得られている」と結論付けた。

※訳注2
 国際がん研究機関が出版した、
高周波の発がん性2B評価に関するモノグラフ“non-ionizing radiation, part 2: radiofrequency lectromagnetic fields volume 102”のこと

・欧州環境庁は報告書を発行して、携帯電話電磁波のために、脳や唾液腺の腫瘍のリスクを最も大きく被るだろう子どもや若年層に対して、その曝露を減らすよう働きかけることを各国政府に求めている。報告書では以下のことを推奨している。テキストメッセージ(メール)を主とすること、ハンズフリーセットの使用、(電磁波曝露を低減できるよう)デザインを改良すること。政府は現在の曝露規制値を見直す必要があり、携帯電話が持つ潜在的なリスクについて知らせるために効果的なラベリングや警告表示をすべきこと。「携帯電話や基地局の健康影響に関する緊急に必要とされる研究」への助成を行うべきこと。
・12名の保健分野の専門家が、現在の高周波の安全基準は時代遅れであり、生物影響に関する最近の文献に基づいていないため、より厳格な安全基準を採用するよう政府に求めている。Wi-Fiを公立学校や公共の場では禁止することを勧めている。
・ロサンゼルス統一学校区では、保健分野の専門家や米国小児科学会からの反対にもかかわらず、すべての教室でのWi-iをインストールして、ワイヤレスタブレットをすべての学生を提供するために5億ドルの事業計画を採択した。
・ベルギーでは、子どもの携帯電話が禁止され、携帯電話端末を販売する際にはすべての端末の各々の比吸収率(SAR)データを提示して、顧客がより低いSARを持つ機器を選択できようにすること、そして適度な使用にとどめることやイヤホンを着用するように注意を促すことが求められるようになった。
・フランスの食品・環境・労働衛生庁は、携帯電話電磁波への曝露を減らすよう一般公衆への警告を発している。

 筆者は携帯電話電磁波に関して今年は21件のニュースをネットにリリースしたが、その中で私の最もお気に入りは、第四世代(4G)携帯電話の技術であるLTEへの曝露がヒトの脳にどう影響するかを述べた、世界初の論文である。これは査読付き論文で、研究者らはLTEに30分間曝露することでヒトの脳がどちらの側においても活性に変化が生じることを見出した。
 この研究はLTEのマイクロ波への短時間の曝露がユーザの脳の活動に影響を与えることを立証した。長期的な健康への影響を知るにはLTEは出現したばかりの技術であることは確かなのだが、私たちはすでに、携帯電話の長期間使用で、頭部や頸部のガンのリスクの上昇、精子の損傷や男性不妊、出生時前後(胎児期や新生児期)の曝露による影響(例えば注意欠陥多動性障害)などの証拠が続々と挙がってきていることを見ている。最近の研究では、ブラジャーの中に自分の携帯電話入れて持ち歩いている女性がまさにその箇所に近接した部位で乳腺腫瘍を発症した女性が4例あることが報告されている。
 LTEの研究は主流メディアでは報道されなかったが、この問題で私が出したウェブの記事に対しては7,000以上のページビュー、ほぼ800件のFacebookの「お気に入り」とツゥイッター上の75のリツゥイートがあった。この記事はスペイン語、フランス語、オランダ語、フィンランド語などに翻訳されて、世界中の43のウェブサイトに再掲載されより多くのページビューを得ることになった。
 以下に列記したのは、プレスリリース配信サイトPRLOGに筆者が今年投稿したうちで最も人気のあった11件のニュースリリースと、筆者のホームページ「電磁波安全性を問う」(Electromagnetic Radiation Safety)に掲載したうちで最も人気のあった9件の記事である(※訳注3)。
 私のニュースリリースは約60,000ページビューを受け、私のウェブサイトは世界100カ国以上からの訪問者によって約40,000ページビューを受け取ったが、これは電磁波の安全性に対して世界的に関心が高いことを証明しているだろう。

※訳注3
 各記事については、原文のサイトを参照してください。記事の中で言及されている、様々な重要な報告書や政府文書がリンクでたどれるようになっています。

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