リニア中央新幹線 残土置き場が目立つようになった大鹿村

 会報102号、108号で、リニア中央新幹線の工事で最難関と言われる南アルプストンネル長野工区の本体工事が行われる長野県大鹿村の状況を報告させて頂いた。今年3月24日には、私の住んでいる神奈川県相模原市藤野地区に、村民の前島久美さんをお招きして報告会を開催した。
 この8月26~27日、家族旅行で大鹿村を訪れることになったので、その合間で調べられる範囲で工事の状況を確認した。また、27日には長野県飯田市の山中にある大平宿に滞在中の前島さんを訪ね、私の見聞きしたことに解説をして頂いた。

両トンネルと昨年12月の崩落事故現場(信濃毎日新聞のウェブサイトより)

事故を起こしたリニア工事関連トンネル着々と

 26日、何時ものように中央道松川インターから県道松川インター大鹿線を通って大鹿村に車を走らせる。ここではトンネル2本を新設し、道路を拡幅する関連工事が行われている。松川インターに近い西下トンネル(仮称)付近で小渋川対岸に目をやると大きな残土置き場が目に入る。後で前島さんに聞いたところでは、関連工事の残土置き場ということであった。西下トンネルの次に四徳渡トンネル(仮称)の工事現場が見えてくる。このトンネルの入口真上が、2017年12月15日に崩落事故を起こした場所だ(会報110号に既報)。西下トンネル(仮称)は開通して出入り口の橋及び吹き付け部の整備中(写真1)。年内に運用開始予定。四徳渡トンネル(仮称)は、来年度、暖かくなる頃に運用開始予定とのこと。

写真1・西下トンネル(仮称)

真新しい道の駅にびっくり

 大鹿村内に入り、さて買い物でもしようかと国道152号線沿いの地元物産店と観光案内所があった所に行くと、何と真新しい道の駅「歌舞伎の里大鹿」になっていてびっくりした。この8月9日にオープンしたばかりだという。中に入ると、木をふんだんに使った建物で、地元生産物販売に食堂や観光案内所の他、奥に入ると日用品や生鮮品も売っている。南信州で展開しているキラヤというスーパーマーケットが、この道の駅に入っているそうだ。トイレ近くにさりげなく「時速500km/hを体感しよう!」というリニア体験乗車案内ポスターも貼ってある。 
 道の駅の設置には国土交通省の認可が必要で、ある程度の交通量と地域振興の拠点となることが条件とのこと。前島さんは、工事車両も含めて交通量をクリアしたのではないかと推測していた。また、経営が赤字になっても村が補填することになっているという。私には、この道の駅はリニア工事に伴う地元振興(懐柔?)策ではないかと思えた。

「村の事業」として残土を搬入

 道の駅から小渋川を挟んで大鹿村総合グラウンド方面を眺めると、橋桁が半分しかかかっていない(写真2)。建設中の橋は、本来予定した場所が私有地にかかっており、手続き的に時間がかかるので、村が便宜を図り予定にはなかった村有地を提供した場所である。大鹿村総合グラウンドも残土置き場となった。環境影響低減の為、村が提供したのだ。このグラウンドは少年サッカーや村の消防団が定期的に使用しており、村民は代替地の提案を待ったが、公の場で村が説明をすることなく、運用が開始されている。グラウンドへ運び込まれた残土は、グラウンドを整備するために使う名目で、一般的には「村の事業」という位置づけになっている。
 さらに国道152号線を小渋川上流方面に向かうと、歴史民俗資料館「ろくべん館」の隣に残土置き場が見える。ここは、国有地だった場所を一旦長野県に払い下げ、それをさらに村が買った場所である。村長は、ここの残土置き場については、歌舞伎伝承館にしたいが、それが駄目なら公園にするという。そのような曖昧な目的でよいのだろうか。

写真2・南アルプストンネル長野工区の作業用トンネル「小渋川非常口」掘削で発生する残土運搬用の仮桟橋(建設途中)

 南アルプストンネル長野工区からの残土置き場は、大鹿村以外では1ヶ所も決まっていない。現在、南アルプストンネルの除山(のぞきやま)非常口と小渋非常口の工事が着工しているが、残土についてはそれぞれの集落内に仮置き場を作っている。ちゃんとした置き場が決まっていなくても工事は進んでいるため、残土はどんどん積まれることになる。そこで、僅かな土地でも残土が置ける場所を探すしかない。私が今回の訪問で見た残土置き場も弥縫策としか言えないレベルのものである。しかし、ちょっとずつちょっとずつ、プレッシャーをかけるように残土が増えていき、人々の「しょうがない」という気持ちが強まるのを待っているように思える。
 除山非常口工事が進む釜沢集落では、トンネル工事に伴う発破作業を業者が事前に知らせてくるのだが、最近では、夜の発破を許可して欲しいと言ってきているという。釜沢集落は、野生動物に配慮して夜間は電気を消しているようなところだが、そのような場所で24時間の発破作業を行うというのはどういうことなのか。発破作業の影響か、風呂場のタイルやコンクリートにひび割れが起きたり、集落内では落石が増えているという。
 工事は明らかに遅れている。本当に多くの問題があるからだろう。しかし、JR東海は何も譲らない。そこで、前島さん達は、今後は公害調停にチャレンジしてみようと考えている。長い闘いとなるが、読者の皆さんも関心を寄せて下されば幸いである。

携帯が通じない大平宿

 さて、リニアとは直接関係がないが、前島さんが滞在していた大平宿について簡単に紹介しておきたい。 
 ここは、江戸時代から飯田市と木曽を結ぶ宿場町として栄えた場所で、標高1150mの高原である。1970年に集団離村して廃村となるが、住居はそのまま残り、その後の保存運動もあって電気や水道も通っており、恐らく日本で唯一、廃村に宿泊できる場所となっている(写真3)。

写真3・大平宿の宿泊施設

 そして、ここは携帯電話の電波が通じない場所でもある。外部との連絡手段は公衆電話となる。残念ながらここにも古民家には不似合いなスマートメーターが設置されているが、携帯電話が使えないことからすると、通信はしていないかも知れない。都会での様々なストレスからは多少なりとも逃れることの出来る場所だと思う。人が宿泊をして家を使うことが保存につながるので、興味を持たれた方は是非訪れてみて欲しい。大平宿の問い合わせは南信州観光公社(℡0265-28-1747)へ。【渡邊幸之助】

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