学習会 5Gで増える電磁波とそのリスク 2 「迫る5G その先は天国か! 地獄か?」

鮎川哲也

 総務省が主導して各事業者が取り組んでいる5Gの実証実験の中から主なもの、分かりやすいものを紹介する。そこで試されている技術によるバラ色の未来が描かれているが、そんなに良いことばかりではない。私の個人的な見解も入っているが、5Gの技術と、その技術が私たちに与える影響について皆さんとともに考えたい。
 総務省は「ICTインフラ地域展開戦略検討会」が示した、地域社会が抱える8個の課題について網羅的に実験のテーマを設定している。その課題とは①労働力、②地場産業、③観光、④教育、⑤モビリティ(乗り物)、⑥医療介護、⑦減災・防災、⑧マイナンバーカード利活用。
 これらの課題を5Gでどう「解決」するのか。たとえば「労働力」は重機の遠隔操作など、「地場産業」はたくさんのセンサーを使う「スマート農業」など、「観光」は高精細動画の配信など、「教育」は教科書をなくしてタブレットで通信しながら学ぶなど、「モビリティ」はトラックの隊列走行など、「医療介護」は遠隔医療など、「減災・防災」はドローンで情報を集めるなど。ただ、「マイナンバーカード」は「行政サービス」と説明されているが5Gとの関連がわからない。
 先ほども説明があったが、5Gの特徴は高速・大容量、低遅延、多数同時接続である。この三つの特性を活かすための実証実験は、既に行われたものもあるし、これから行われるものもある。また、現実的なものもあるが、必要ないのではというのもある。

スタジアム内で端末で観戦

図1 「5Gタブレットへの自由視点映像リアルタイム配信」の仕組み(KDDIのウェブサイトより)

 まず、観光の分野では、スタジアムのあちこちにカメラを配備して、高精細な動画を5Gでリアルタイム送信し、スタジアム内の観客がその中から“キャッチャー目線”など好きなアングルを選んで端末で見るという実験がある(図1)。これが実現すれば素晴らしいと思いますか? よくスポーツ観戦する人は分かると思うが、目の前の動きを追うのにいっぱいで、端末など見ている暇はないのではないか。それに、端末よりはビールを手に観戦したい。
 また、鉄道などへの高速移動体への映像送信。5Gで2時間の動画を3秒でダウンロードできる。電車の中でも映画を見られて素晴らしいというが、電車の中で映画を見たがる人は多いだろうか。旅先の情報も見られるというが、5Gがなくても既に可能だ。
5Gは「失敗しない」か
 医療介護の分野では、低遅延と高精細を活かして、高い技術を持った医師が遠隔地での診療をサポートする。将来的にはロボットを遠隔操作しての手術も考えられる。しかし、トラブルが起きた時に高い技術を持った医師は遠くにいるわけで、現地でフォローできないという問題も起きかねない。テレビドラマ「ドクターX」で、ニューヨークの医師が遠隔操作で東京の患者を手術していたが、カメラに血が飛んで見えなくなったため手術ができなくなり、そこに米倉涼子が来て救ってくれた、というシーンがあった。トラブルにきちんと対応できるシステムが作れるのであれば、高度で先進的な手術などをどこでも受けられることは喜ばしいことではある。

重機を遠隔操作
 労働力の分野では、高精細、低遅延を活かして、危険な現場などの工事で重機を遠隔操作する。何の問題もないのであれば人手不足対策として有効だが、対策は取るだろうが、電磁干渉による暴走などで事故が起きると、重機だけに被害が大きくなり得る。
 また、工場などの生産ラインで産業用ロボットの動作状況を5Gにより伝送し、ロボットの配置や作業内容の柔軟な対応を可能とするという実験もある。作業が遅れているところへロボットが自分で移動して手助けをするなどが考えられている。5Gをうまく利用できるかよりも、プログラムの開発のほうが大変そうだが。

遺跡で子どもにヘッドマウント

図2 NTTドコモ、凸版印刷などによる、5Gを用いた歴史教育向けコンテンツ配信の実証実験(琉球新聞のウェブサイトより)

 教育の例としては、沖縄県の今帰仁城跡でバーチャル・リアリティ(VR)ヘッドマウントを装着して城跡を見渡すと、昔の城や人などが立体的に見えて、臨場感を持って歴史を学べるという実験がある(図2)。こんなツールを使わないと教育が活性化できないのなら、嘆かわしいと思う。5G以前に既に子どもたちが端末を使うことが増えて電磁波曝露が増えていることも問題だ。

図3 KDDI、長野県白馬村などによる除雪車の運行支援に係る実験(総務省「5G実現に向けた進捗状況について」2018年12月3日)

 モビリティ分野では、除雪車の運行支援がある(図3)。除雪車の位置情報を5Gで伝送し、周囲の障害物情報を提供し、除雪作業の安全かつ効率的な運行を支援する。また、除雪作業の中継車から道路状況やごみ収集状況などの映像を市町村の担当者にリアルタイムで送信する。これはまさに今東北や北陸が大雪で大変なことになっていて、こういうのはアリなのかなと思う。

図4 トラックの隊列走行のイメージ

 低遅延を活かしたトラックの隊列走行。3~4台(試験時)のトラックのうち、先頭車には人が運転し、後続は無人で先頭車から伝送される車両制御メッセージに従って走る実験に成功したと発表されている。1人で複数台運転できるので、ドライバー不足の対策になる。ただし、走行中にパンクなどの支障が起きた場合、どうやって停止させるのか。また、縦列トラックの間に無謀なクルマが割り込んでくることもありえる。

健康影響が特に懸念される技術
 5G技術そのものではないが、5G導入と相まって私たちへの影響が特に懸念される技術を紹介する。
 一つ目は「コネクテッド・カー」。クルマがパソコンのようにネットワークに接続し、道案内や周囲の観光地やさまざまな施設を案内できるようにする。さらに、周囲の交通情報を取得し、危険を事前に察知し、将来的に自動運転を可能にしていく技術とされている。しかし運転者、同乗者が電磁波を浴び続けることや、常時接続でバグが発生して暴走しないのか、あらゆる情報をネット任せにすることの弊害といった懸念がある。さらに自動運転へと進んでいくのだろうが問題はないのか。
 また、窓に貼り付ける携帯電話基地局である「ガラス型アンテナ」、マンホールのように道路下などに設置する「マンホール型アンテナ」が、5G開始以前から設置されようとしている。両方とも基地局の場所が外見上分かりにくいので、そうと知らない間に基地局の至近距離から強い電波を浴びる恐れがあり、健康影響が懸念される。

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