中国で5Gの採算性に疑問の声 「人類社会は5Gを緊急に必要としていない」

 米国国営放送「ボイス・オブ・アメリカ(VOA)」のウェブサイトに掲載された2020年10月10日付の記事「Chinese 5G Not Living Up to Its Hype」によると、5G基地局を中国全土に展開したとき必要となる年間電気代は、中国の携帯電話会社のうち1社の年間利益の10倍になると見られ、事業者はコストの大きさに頭を抱えているそうです。
 5G技術の最先進国と言われている中国でも5Gの電気代を節減できないのですから、日本も同様の問題があるのではないでしょうか。
 5Gの必要性についても疑問が示されているそうです。需要が少ないため、夜間は5G基地局を停止している都市があるそうです。
 この記事を紹介します(一部省略あり)。【訳・網代太郎】


中国の5Gはその宣伝文句通りにはいかない
By John Xie

 昨年来、中国全土の屋根や電柱、街灯には、5G用のハイテク無線基地局が数十万基設置されており、新技術でリードしようとする中国の野心を強く示している。しかし、それらの多くは1日の半分しか稼働していない。
 通信事業者3社のうちの1社であるチャイナ・ユニコムは8月、河南省の洛陽支店で、利用する人が少ないため、5G基地局を午後9時から午前9時まで自動的にスリープモードに切り替えると発表した。他の2つの通信事業者もすぐに追随し、その後、国内の他の都市でも同じ方針を展開している。
 チャイナ・ユニコムの王暁初会長は、同社の中間決算説明会で、「基地局の停止は、手動で行うものではなく、一定の時間になると自動的に行われるものだ」と述べた。
 5Gは、中国の近年の歴史の中で最大のテクノロジー投資の一つだ。第5世代のモバイルネットワーク技術は、デジタル通信における次の大きな飛躍と言われており、世界を変え、新たなデジタル革命に拍車をかけることが期待されている。
 中国は2019年9月、自動運転から仮想手術までの新しいアプリケーションをサポートするために、かつてないデジタルスピードを実現することを約束して、商業用5Gネットワークを正式に立ち上げた。それから1年以上が経過したが、最大の5G市場には現在、ネットワークの速度や導入コストの高騰に関する不満が広まっている。

シグナルが壁にぶつかる
 5Gでは、より多くのデータを高速で処理するために、現在のネットワークよりも高い周波数を使用する。しかし、信号の到達距離が短くなり、干渉が増えてしまう。天津大学の通信の専門家である王暁飛氏は(略)「中国は都市部で200~300mごとに基地局を建設しなければならない(略)」と述べている。
 また、新華社の報道によると、現在の4Gと同じ広さをカバーするためには、最終的に通信事業者は全国に1,000万台もの基地局を設置する必要があるとのことだ。
 「今年からの3年間は、毎年100万の5G基地局を建設する必要があるかもしれない」と、通信業界団体「情報消費連合」の項立剛事務局長は昨年、国営メディアに語っている。
 今年の上半期、中国が新たに建設した5G基地局は25万7000局にとどまった。工業・情報技術省(MIIT)によると、これまでに中国全土に設置された同基地局の総数は、6月末時点で約41万局にとどまっている。

大きなコスト、小さな利益?
 中国の通信事業者にとって、5Gの電力供給に必要なエネルギーのコストは、もっとも頭が痛い問題の一つだ。
 ミネソタ大学のSoumya Sen(ソウミャ・セン)准教授(情報・意思決定科学)は、VOAの取材に対し、「5Gの基地局装置は、技術の仕組み上、4Gの約3倍のエネルギーを消費する」とメールで答えた。(略)
 MIIT直轄のメディアであるChina Post and Telecommunications Newsのレポートによると、5Gが4Gと同じ程度の広さのカバーを達成した場合、基地局の年間電気代は290億米ドルに迫るという。この金額は、中国の国有通信会社3社のうちの1社であるチャイナ・テレコムの2019年の利益の約10倍に相当する。
 初期のころは、5Gを従来のものよりも電力効率の高いものにしようとする努力がなされていたが、現実が定着するにつれて、その野望はすぐに打ち砕かれた。
 5Gサービスが正式に開始されてから2カ月後、中国のある通信事業者のトップが、5Gの消費電力とコストの削減はほとんど進んでいないと認めた。先週北京で開催されたGSMアソシエーション[訳注・世界的な携帯電話業界団体]のセミナーで、チャイナ・モバイルの李正茂副社長は、政府に通信事業者の電気代を補助するよう求めた。
 弁護士で政治リスクアナリストのRoss Feingold(ロス・ファインゴールド)氏は「そのためには、B2C(企業対消費者)レベルでの月額料金や端末の補助期間の延長、あるいは減税などの支援策を政府が行う必要があるかもしれない」と述べた。
 今年初めに開催されたフォーラムで、元工業・情報技術大臣の李毅中氏は、今後数年間で総投資額が2,200億米ドルに達する可能性があると述べた。
 また、別の元政府高官は最近の講演で、中国の5G推進が失敗した投資になりかねないと警告している。
 「既存の5G技術は非常に未熟で、数千億の投資が投入されているが、運用コストが非常に高く、応用シナリオが見つからず、将来的にコストを消化することが難しい」と、楼継偉元財務相が先月の講演で警告したと報じられている。
 中国情報通信研究院が発表した「The 2020 China 5G Economic Report」と題されたホワイトペーパーによると、「一般消費者や産業界のユーザーにとって、5Gの長期的なメリットや報酬を実感することは難しい」という。中国の消費者を対象とした最近の調査によると、回答者の73.3%が「一般人は5G携帯電話を購入する必要はない」と述べた。また、市場調査グループのiiMediaが先月発表した調査結果によると、5G携帯電話を購入しない主な理由は、そのような必要がないからだという。
 期待と投資を受けている5Gは「実際には誇張されたものであり、いずれにせよ社会が必要としているものではない」と、この技術を支配する企業を率いている、その人物は述べている。「実際、人類社会は5Gを緊急に必要としているわけではない」とファーウェイの創業者兼CEOの任正非氏は言った。「人々が今必要としているのはブロードバンドであり、5Gの主たる中身(main content)はブロードバンドではない」。

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