札幌市における「新幹線・ファシズム」

匿名希望(札幌市、電磁波研会員)

 リニア中央新幹線の電磁波問題から派生して、現在ではそれが抱える多面的な問題点について考察する記事が当会の会報に断続的に掲載されています。『電磁波研会報第124号』(2020年5月31日)の「沿線の大鹿村で集会 リニア・ファシズムなど報告」で、リニア中央新幹線の残土処分が住民の声を圧殺する形で強行されていることを知り、憤りを覚えましたが、北海道新幹線トンネル残土に関しても同様の現象が起きています。
 現在、独立行政法人鉄道建設・運輸施設整備支援機構(以下「機構」)は、札幌市が誘致予定の2030年札幌五輪に間に合わるため、北海道新幹線トンネル(新函館北斗駅~札幌駅の約212km)の掘削工事を進めています。総距離数の80%がトンネルであるため、大量の残土が出土します。札幌市内の掘削総量は約230万㎥ですが、そのうち自然由来重金属等の基準値を超える「対策土」と呼ばれる土(以下「汚染土」)がその約半分(札幌ドーム0.7杯分)と想定されています。昨年この汚染土の受入候補地として札幌市手稲区手稲山口を札幌市が選び、汚染土の埋立てに向けた工事が本年7月から進行中です。約7年間とされる汚染土搬入期間中、汚染土は野ざらしです。汚染土搬入完了後には遮水シートで汚染土を覆い、その上に覆土します。

4600万人分致死量のヒ素などを含む汚染土を名産農産物の生産地近くに埋め立てる!
 問題の1つは、この汚染土の毒性です。というのも、汚染土には環境基準を超えるヒ素・カドミウム・水銀・鉛などの有毒重金属が含まれています。誰でも一度は聞き覚えのある危険な物質が並んでいます。たとえばヒ素に関して言えば、ある土木関係の専門家の試算によると、汚染土100万㎥(ヒ素平均濃度0.11mg/Lを想定)からの溶出量は9.2トン、人間の致死量(半数致死量0.1g/人)換算では4600万人を死に至らしめるほどの大量の毒物が含まれています。また、毒物に詳しいある大学院客員教授は以下のように指摘しています。①地中から掘り出されたヒ素が空気や水に触れると、すぐに酸化して猛毒「亜ヒ酸」(青酸カリと同等以上)に変化する。水に溶けやすいため、地中にしみ込み、土壌を汚染する。②ほこりなどで吸ったヒ素化合物が強酸の胃に入ると、酸性水和反応が加速されて、猛毒の亜ヒ酸に変わりやすくなる。そのため、腸内細菌が亜ヒ酸に冒され、子どもは「慢性ヒ素中毒」を起こすおそれがある。
 さらに問題なのは、猛毒物質が含まれる汚染土の埋立地とされた手稲山口の立地です。というのも、皆様が抱くであろう「札幌」のイメージとは異なり、手稲山口は「サッポロスイカ」や「大浜みやこ」(カボチャ)の生産地として有名で、これらの農作物は札幌農業の代名詞となっています。よりによって、安全・安心が求められる農作物しかも名産品の生産地である手稲山口に汚染土を埋立てるようなことがあれば、この地域における農業がどうなるのか言うまでもありません。風評被害にとどまらず、粉じんや地下水汚染が引き起こす実害による衰退が懸念されます。しかも、汚染土の埋立地から約300m南に小学校があり、1kmにも満たない南には人口約1万4千人を抱える星置地区が位置しています。生活圏に隣接した場所にかくも危険な汚染土を埋め立てることは人道上許されません。

地域住民7割強の反対を無視
 上記のような理由から、手稲山口住民や星置の有志は、札幌市と機構が汚染土を手稲山口に埋め立てることに反発し阻止に向けた運動を展開していますが、住民の声が圧殺されています。たとえば本年7月2日、手稲山口住民の7割強に相当(署名提出団体による)する署名によって、手稲山口への汚染土埋立てに反対する住民の意思が明らかになったにもかかわらず、同5日から現場で汚染土搬入に向けた準備工事に機構が着手したのです。札幌市長の秋元克広氏は、市議会で「地域住民をはじめ市民の皆様の理解を得ずにその先に進めることはできない」と公言してきたにもかかわらず、その約束を平気で破り、工事を強行しているのです。首長が住民の意思を無視して自らの意思を通す専制が今まさに札幌市の新幹線事業で繰り広げられています(なお、同じく汚染土問題に直面している道南・北斗市の現状については「流域の自然を考えるネットワーク」のホームページ参照)。今冬にも手稲山口における汚染土の埋立てが見込まれています。極めて厳しい状況ですが、今諦めて「リニア・ファシズム」ならぬ「新幹線・ファシズム」に屈するわけにはいきません。

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