低強度の高周波電磁波による健康への非熱影響を否定する主張は、非科学的/非論理的である

山口みほさん(電磁波研会員、福岡県)

 電磁波過敏症、化学物質過敏症を診療・研究する医師、研究者らも参加している日本臨床環境医学会の、第31回学術集会が6月24、25両日、近畿大学(東大阪市)で開かれました。同集会での発表から、山口みほさんの発表内容を、山口さんからご了解をいただいてご紹介します(山口さんは同集会にオンライン参加)。
 山口さんは、自宅のそばに携帯電話基地局が建ってから電磁波過敏症になり、それがきっかけで電磁波の健康影響に関して海外の情報を調べるようになりました。医学系の研究者ではありませんが、ご専門の英語を駆使して英文の論文はもちろん、英語の動画を視聴し、不明点や疑問点は直接研究者らに問い合わせて確認し、電磁波研会報や、同学会などで情報発信をしてきました。
 [ ]は編注です。


低強度のRFRの健康影響/非熱効果を否定する主張が非論理的で科学的根拠に基づいていない事について

背景と目的
 [昨年の]第30回日本臨床環境医学会学術集会に於いて「国際学会報告」注1としてお伝えしたように、The EMF Medical Conference 2021 [米国で開催された「電磁界医学学会2021」。会報第130号会報第135号参照]では、環境中で増大し続ける、携帯電話、携帯基地局、WiFiルーター等、様々な発生源からのRadiofrequency Radiation(RFR/無線周波放射[高周波電磁波])によって、頭痛、耳鳴り、睡眠障害、鬱、ADHD、アルツハイマー病、糖尿病、心臓発作、脳卒中、脳腫瘍、癌、不妊、その他が引き起こされる事、また、電磁場曝露と化学物質暴露が非常に類似した作用をもたらし、それらが重なってさらに大きな健康影響を及ぼす事も示された。
 このように、低強度のRFRの及ぼす影響(RFRの非熱効果)を明らかにする研究報告が増え続ける中、未だにその健康影響を認めない人達が国内外の政府その他の組織に存在する。彼らはその論拠として常套句のように「非熱効果の健康影響を認めない論文もあるのでバランス良く見れば影響無しと言える」;「The International Commission on Non-Ionizing Radiation Protection (ICNIRP/国際非電離放射線防護委員会)が安全と言っているから安全だ」と主張するが、これが非論理的/非科学的である事を論証する。

検証
 ①「RFRの非熱効果について、『影響あり』とする研究結果と、『影響無し』とする結果の両方があるので影響は無い」というのは、そもそも非論理的である。

 ②研究論文に於いて、RFRの非熱効果が「影響あり」と示すものと「影響無し」と示すものの割合について、Henry Lai [ヘンリー・ライ]博士(Bioengineering, University of Washington (USA)名誉教授-Electromagnetic Biology and Medicine 名誉編集者)が図1のような調査結果注2を発表している。Lai博士は研究論文をRFRについてのものと静磁場、静電場、超低周波電磁場についてのものの2つに分けて統計を取っている。ここではRFRの統計について引用する(図1)。< >内はアップデートされた日付である。一つの論文が複数のカテゴリーにまたがる場合がある[Lai博士によるこの研究(ただしアップデート前)は会報第126号既報]。
 同様の統計結果が、世界中で数多く発表されている。
 図2はThe EMF Medical Conference 2021 のExecutive Producer: Elizabeth Kelley [エリザベス・ケリー]氏より山口が使用許可を頂いたもの。Igor Yakymenko [イゴール・ヤキメンコ]博士(PhD, DrSc Professor of Environmental Science,Department of Environmental Safety, National University of Food Technologies, Ukraine) のThe EMF Medical Conference 2021 での発表より、低強度RFRの酸化的影響に関する研究の内、「影響あり」と示すものの割合が93%であることを示している。

図2 低強度高周波/マイクロ波放射の酸化的影響に関する実験についての100の査読付き論文

 このようにRFRの影響を示す研究の方が圧倒的に多いのに「バランス良く見れば影響無しと言える」というのは詭弁である。

 ③RFRの影響を認める論文と認めない論文の重みが同等でない事について、Erica Mallery-Blythe [エリカ・マレリーブライズ]博士(BSBM、Founder and Director PHIRE - Physicians’ Health Initiative for Radiation and Environment (UK))は、影響を見つける事に成功するより失敗する方が簡単なので、割合を比較する場合、それも考慮されるべきであると指摘している。注3
 また、産業界から資金提供を受けた研究の方が、そうでない研究に比べて、RFRの影響無し、とする割合が高い事も多くの統計によって明らかにされているが、これも考慮されるべきである(図3)。注4、注5
 ④通信業界とそれを規制する立場の組織が癒着している事は多くの専門家が指摘する。
 EU議会議員の報告書(2020)注6[会報第125号既報]でも、ICNIRP(国際非電離放射線防護委員会)、WHO(世界保健機関)Institute of Electrical and Electronics Engineers)(IEEE/アイ・トリプル・イー/米国電気電子学会)、その他と通信業界や軍需産業との癒着が明らかにされている。
 EU議会議員の報告書は、以下のように述べている:

 ICNIRPは民間の小さいグループで、そのメンバーを選ぶのもICNIRP自身、というプライベートクラブにすぎない。ICNIRPは、WHOに認められた組織であると自称するが、実は同一人物:Michael Repacholi[マイケル・レパチョリ]博士がICNIRPとWHOのEMF(電磁場)プロジェクトの両方のリーダーシップをとっており、WHOがICNIRPを正式に認めている、というのは、Repacholi博士が自分で自分の組織を認めているという事にすぎない。
 背景は次のようである。オーストラリアの科学者: Repacholi博士は、ICNIRPの創設委員長になり、その後、WHOのInternational EMF Project(IEMFP、国際EMFプロジェクト)のディレクターになった(1996~2006)。(1996にRepacholiはICNIRPの名誉委員になったが影響力は今も保持。)
 Repacholi博士は、すぐにWHOとICNIRPの間に密接な協力関係を築き、電気、通信、軍需産業の関係者を会議(複数)に招待した。また、WHOのEMFプロジェクトの大部分に、電気通信業界のロビー団体であるGSM協会とMobile Manufacturers Forum(現在はMobile & Wireless Forum(MWF))が資金を提供するよう手配した。Repacholi博士のEMFプロジェクトが産業界から資金を得ている事についてはRepacholi 博士自身も認めている。そして、Repacholi博士は、通信業界側と異なる見解を持つ科学者を、EMFの評価プロセスから排除して、その結果、通信業界側に都合の良い報告書や評価書が作成された。
 IEEEや、その組織であるthe International Committee on Electromagnetic Safety(ICES/電磁波安全性国際委員会)のメンバーに軍や通信産業の関係者が含まれている事は公にされているが、ICNIRPのメンバーの中には、このICESのメンバーや元メンバーがいる。Repacholi博士も“ICES literature systematic review working group”(ICES文献システマティックレビュー作業部会)のメンバーだった(2017も)。ICESは、最新公表の年次報告書(2016年)において、次のように述べている:
 「ICESは、300GHz以下の周波数における電磁界への曝露に対する国際的に調和された安全基準を設定する事を目標に、ICNIRPとの協力関係を維持する。」
 RFRの非熱効果を明確に示す科学研究が増大し続けているにも関わらず、WHOもICNIRPも、Repacholi博士のリーダーシップの元、今日に至るまで非熱効果を否定する見解を保持している。

 ④のまとめ
 このように、EU議会議員の報告書により、
・ICNIRPとWHOは通信業界と癒着して利益相反がある事、
・ICNIRPとWHO同士も癒着している事、
 そして非熱効果などを無視したICNIRPやWHOのガイドラインや見解は、企業の都合に合わせたもので、専門家全体の見解をバランス良く踏まえておらず、それを安全基準の根拠とするのは間違いである事が明らかにされた。
(報告書では、その他、世界中の多数の組織が、通信業界と癒着している事も示された。)
 EU議会議員の報告書は、また、(WHOの一機関である)International Agency for Research on Cancer(IARC/国際がん研究機関)が、2011年に、無線電話の使用に関連した悪性脳腫瘍の一種である神経膠腫(グリオーマ)のリスク上昇に基づき、RFRを「ヒトに対して発がん性がある可能性がある(グループ2B)」と分類している事にも言及している。
 これを補強するエビデンスがその後も増え続けており、同報告書以外でも、発癌性がある事は“可能性あり”ではなく“確実”であると、多くの科学者が指摘している。

 ⑤ICNIRPはRFRへの曝露制限について、局所領域と全身への曝露について6分または30分間隔で平均化して考えている注7が、このような時間平均値では健康影響を及ぼす以下の現象に対応できない。
非熱効果
長期間の曝露による影響
影響の出方は非線形である。また、電磁波の影響にウィンドウがある場合がある。(例:脳へのアルブミン漏れ)注8
GSM変調によって、被曝量は、同等の時間平均SARの連続波と比べ非常に高くなる。注9
パルス波が分子や細胞レベルの生物学的活動に影響する。注10
高周波搬送波の低周波変調が生体細胞における活性酸素の生成の増加やDNA損傷をもたらす。注11/ほとんどすべての人為的なRF EMF(無線周波電磁場)は、変調、パルス、ランダムな変動という形でextremely low frequency(ELF/超低周波)成分を含んでいる)。注12 携帯電話も含め現代のすべてのシステムで、データパケットがパルス化されると、RFRにELF(超低周波)成分が導入される[超低周波電磁波が導入(混入)されるわけではない]。これが変調されていない(データがない)RFRよりも大きな生物学的影響を及ぼす。注13

結論と考察
RFRの非熱効果を認める研究結果の方が圧倒的に多い
ICNIRPやWHO、その他の組織は通信業界と癒着しており、科学的エビデンスを無視し、少数派の研究結果だけをとりあげてRFRの非熱効果等を否定している
時間平均した電力密度に基づくICNIRPのRFRへの曝露制限では安全を守れない。
 故に、「非熱効果の健康影響を認めない論文もあるのでバランス良く見れば影響なしと言える」とか「ICNIRPが安全と言っているから安全である」という言い訳は、非論理的、非科学的である
 世界中の専門家が、「非熱効果が健康に影響を与えるというエビデンスはもう十二分にあり、これ以上必要ない;後はpolitics(政治)の問題である」と指摘している。既に健康影響が拡大した中、直ちにRFR低減の為の対策を取らなければならない。

 注1) 山口みほ「The EMF Medical Conference 2021 について概観:電磁場の健康影響の拡大、その生物学的メカニズム、ノセボ効果ではないというエビデンス、及び対策」『臨床環境医学』31(2):78-90, 2022(2023) 
 注2) Henry Lai’s Research Summaries. Bioinitiative 2012; report updated -2022.  これらのパーセンテージ比較データについて、Lai 博士と編集者:Cindy Sage 氏より引用許可を得ています。文中の棒グラフはLai 博士とSage 氏より許可を得て、Henry Lai’s Research Summariesのデータを元に山口が作成したものです。
 注3) Doctor Erica Mallery-Blythe – EMF Radiation message for doctors – Health Stronghold Podcast
 注4) Julie E. McCredden1, Steven Weller, et al. The assumption of safety is being used to justify the rollout of 5G technologies Frontiers | The assumption of safety is being used to justify the rollout of 5G technologies (frontiersin.org)
 注5)図3はLai博士から山口が直接頂いた資料。(使用許可を頂いている。)
 注6) The International Commission on Non-Ionizing Radiation Protection: Conflicts of interest,corporate capture and the push for 5G.Klaus Buchner and Michèle Rivasi 
 注7,9,10,11)Scientific evidence invalidates health assumptions underlying the FCC and ICNIRP exposure limit determinations for radiofrequency radiation: implications for 5G
International Commission on the Biological Effects of Electromagnetic Fields (ICBE-EMF)
Environmental Health volume 21, Article number: 92 (2022)のAssumptions underlying exposure limits for RF radiation and the scientific evidence demonstrating that these assumptions are not valid の:B. Factors affecting dosimetry
 注8) Salford, L G., Nittby, H, et al.
The Mammalian Brain in the Electromagnetic Fields Designed by Man-with Special Reference to Blood-Brain Barrier Function, Neuronal Damage and Possible Physical Mechanisms
Conference Paper in Progress of Theoretical Physics Supplement · February 2008 DOI: 10.1143/PTPS.173.283
“In many studies of pharmacological effects in connection with RF exposure, response is only seen at a certain dose range, and not at higher or at lower dosages. This is named “the inverted U-function”. A similar RF response characteristic has been observed by us, seen as a more pronounced albumin leakage at lower than at higher power densities. According to Adey, this kind of dose response might constitute the basis for window effects observed in connection to RF exposure.44)”
 注12)上のAssumption 5) の[106]:Panagopoulos DJ, Karabaarbounis A, Yakymenko I, Chrousos GP. Human-made electromagnetic fields: ion forced-oscillation and voltage-gated ion channel dysfunction, oxidative stress and DNA damage (review). Int J Oncol.2021;59(92). 
 注13) Paul Héroux 博士, Professor of Toxicology and Health Effects of Electromagnetism, McGill University Medicine, Department of Surgery, McGill University Health Center, InVitroPlus Laboratory, Commissioner of the International Commission on the Biological Effects of Electromagnetic Fieldsから山口へのメールより

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