1.電磁波問題の始まり
(1)米国のワルトハイマ-らが1979年、「磁界が高いと想定される送電線の近くに住む子どもは小児がんのリスクが高い」という疫学研究結果を発表しました。その後の疫学研究でも、送電線の周囲での国際指針値よりも遥かに低いレベルの超低周波磁界への曝露と、小児白血病のリスク増加との関連を示す結果が報告されるようになりました。
(2)こうした状況から、世界保健機関(WHO)は 1996年、電磁波の健康リスク評価などを目的とした「国際電磁界プロジェクト」を発足させました。同プロジェクトの一環として、WHO の下部組織である国際がん研究機関(IARC)が静電磁場、超低周波電磁波、および高周波電磁波に発がん性があるかどうかの評価結果を公表。また、WHOが超低周波電磁波の「環境保健基準」を2007年に発刊しました(後述)。
2.電磁波の影響
電磁波による影響としては、以下の通りのものがあります。
(1)電気機器への影響
・電磁障害(電磁干渉)…………リスクの存在が確定しています
(2)人体への影響
・刺激作用…………………………リスクの存在が確定しています
・熱作用……………………………リスクの存在が確定しています
・非熱作用…………………………リスクの存在が不確定
3.電磁波の人体への影響
(1)刺激作用 強い超低周波電磁波による、体が刺激されたり、目に閃光を感じるなどの作用のことを言います。
(2)熱作用 強い高周波電磁波による、体の温度が上昇する作用のことを言います。電子レンジは、この作用を利用しています。
(3)非熱作用 刺激作用や熱作用を引き起こさない程度の強さの超低周波電磁波・高周波電磁波による、体に対するさまざまな作用のことを言います。
(4)WHOの協力機関でもある「国際非電離放射線防護委員会(ICNIRP)」は「国際指針値」を策定していますが、これは、刺激作用、熱作用を予防するためのものです。ICNIRPは「電磁波曝露と健康影響の因果関係が不明確」だとして、人体への非熱作用による健康影響を予防するための指針値を作っていません。
参考:ICNIRPによる国際指針値 静磁場 低周波電磁波 高周波電磁波
(5)多くの国は、自国の規制値を国際指針値と同じか、または、ほぼ同じ値としています。一部の国は、予防的措置として、国際指針値より厳しい規制値(または目標値など)を採用しています。
(6)日本の規制値は、超低周波については国際指針値と同じであり、高周波については国際指針値より若干緩くなっています。
4.非熱作用について、国際機関がリスクの存在の可能性を認めたもの
(1)超低周波
・「平均0.4µT以上の低周波磁界の環境では、小児自血病の発症が2倍ほど増える」という各国の疫学調査に基づき、国際がん研究機関(IARC)は2001年、超低周波磁場を「ヒトへの発がん性があるかもしれない(グループ2B)」と評価しました。
・家の中が0.4µT以上なのは人口の1%程度(日本の疫学調査結果)。
・WHOは2007年に発刊した「環境保健基準(環境保健クライテリア)」で「電力が健康、社会および経済にもたらす便益を損なわないならば、ばく露低減のための 非常に低費用のプレコーション的手順を実施することは合理的であり、是認される。」として、プレコーション的手順(=予防的措置。リスクが科学的不確定でも対策を取ること)を推奨しています。
出典:WHO「環境保健クライテリア238 超低周波電磁界」(環境省訳) 367頁
(2)高周波
・「携帯電話使用が累積1640時間以上の『ヘビーユーザー』で通話する側に脳腫瘍を発症した者と、携帯電話を使用しないで脳腫瘍を発症した者を比べると、ヘビーユーザーの発症リスクは1.4倍である」という「インターフォン研究」結果などに基づき、IARCは2011年、高周波電磁波をグループ2Bと評価しました。
5.非熱作用について、研究によってリスクの存在の可能性が示されたもの
国際機関は電磁波の非熱作用によるリスクの存在の可能性を認めていないものの、研究によって可能性が示唆されたものが数多くあります。
参考:本サイトに掲載されている「調査研究」についての記事
(1)超低周波電磁波
大人のリンパ性白血病・脳腫瘍などのがん、ALS(筋萎縮性側索硬化症)、流産、アルツハイマー、電磁波過敏症など。
(2)高周波電磁波
精子への影響(数の減少、運動低下)、自閉症、マイクロ波ヒアリング、白血病、皮膚がん、前立腺がん、頭痛、めまい、疲労感、虚脱感、不眠症、電磁波過敏症など。
6.電磁波による健康被害例
刺激作用や熱作用を引き起こさない程度の「弱い」電磁波による健康被害例が、これまで、数多く報告されています。
(1)超低周波
・高圧送電線、変電所近くに住む方々の健康被害事例が数多くあります。
・例:米国のジャーナリストのポール・ブローダーが調査し「メドウ通りの災厄」というタイトルの長い記事にまとめ、1990年7月の「ニューヨーカー」誌に発表。米コネチカット州ギルフォードのメドウ通りに住んでいた17歳の少女が、ある日突然、脳腫瘍で倒れました。翌年、別の女性が脳腫瘍で死亡。さらに9歳の男の子が脳腫瘍となり、視神経の悪性腫瘍で失明する若い女性もいました。ウォルストン家では48歳の父親が脳腫瘍に。祖父も脳腫傷で死にました。娘は13歳で膝に腫瘍ができました。妻は腕や足にはい腫ができ、頬にも腫瘍ができました。脳腫瘍にならないまでも、ほとんどの住民は慢性的な頭痛に悩まされていたといいます。ブローダーは、メドウ通りにある変電所と高圧送電線を疑い、メドウ通りの電磁波を測定、2~10µTの電磁波が測定されました。
(2)高周波
・携帯電話基地局の近くに住む方々の健康被害事例が数多くあります。
・例:宮崎県延岡市で3階建てマンションの屋上に携帯電話基地局が2006年10月に設置された後、周辺住民に耳鳴り、肩こり、不眠、頭痛などの様々な症状が出始めました。2010年に地元自治会が周辺550戸を対象に調査したところ、回答した265戸のうち102戸の162人が「基地局ができてから症状が出た」または「症状が悪化した」と答えました。住民30人が基地局操業差し止めを訴えて裁判を起こし、最高裁まで争いましたが敗訴。海外では携帯基地局による健康被害を認めた判例があります(「インド最高裁 携帯基地局、がんの原因と認める」近日掲載予定)。
参考:当会「延岡現地ルポ 延岡で何が起こっているのか (上) (下)」
7.電磁波過敏症(EHS)
(1)電磁波過敏症(Electromagnetic HyperSensitivity, EHSまたはES)は、生活環境中にある様々な電磁波に反応して、頭痛、めまい、不眠、疲労、集中力低下など、様々な症状が出るという、アレルギー疾患と似た病気です。重症になると、通常の生活、修学、就労に重大な支障を生じます。シックハウスなどをきっかけに発症する化学物質過敏症(MCS)にも似ています。
(2)日本人の3.0~4.6%がEHSかもしれない。
出典:当会「北條祥子さんら早大グループ 電磁波過敏症の診療と研究に役立つ問診票を作成」
(3)強い電磁波に曝露したり、弱くても長期間繰り返し曝露された後に発症するか、またはMCSの方が併発して発症するとされています。
(4)EHS患者の約8割がMCSを併発しています。
出典:当会「北條祥子さんら早大グループ 電磁波過敏症の診療と研究に役立つ問診票を作成」
(5)花粉症と同様、ある日、突然発症することがあります。
(6)WHOはEHSの症状の存在は認めていますが、電磁波との因果関係には否定的な見解を示しています。このWHOの見解については、研究者らから批判も出されています。
出典:WHO「ファクトシートNo.296 電磁界と公衆衛生:「電磁過敏症」」
本堂毅「電磁波過敏症 WHOのファクトシートを読んで」
(7)ノルウェー、フィンランド、スウェーデン、デンマークによる国際疾病分類第10版(ICD-10)ノルディック版に2000年、EHSが機能障害として含まれました。これらの国々はEHSを病気として認めていませんが、EHSの人々については障害者として認めています。
参考:当会「ブリュッセルで過敏症の「歴史的」国際会議」
(8)スペインのタラゴナ市は2015年、EHSを含む中枢性過敏症候群(CSS)の人々の生活を世界で初めて行政が支援することを決めました。
参考:当会「スペイン・タラゴナ市 世界初、過敏症支援策」
(9)ノルウェー前首相でWHO事務局長(当時)のグロ・ハルレム・ブルントラントは、自分がEHSであることを公言していました。
参考:旧電磁波から健康を守る全国連絡会「WHO事務局長と携帯電話問題」
(10)2015年6月に英国の15歳の少女が首つり自殺し、両親は「娘はEHSで、学校のWi-Fiによる症状で苦しんでいた。学校は娘を守ってくれなかった」と訴えていると複数のメディアが報じました。
参考:当会「国の15歳少女 電磁波過敏症苦に自殺か」
8.電磁波の子どもへの影響
(1)これまでの世代とは違って、子どもたちの大半は、より幼い年齢(もしかすると子宮にいた時)から電磁波の複合的な発生源に曝露されています。人生において電磁波に曝露される期間・時間・量が、今の大人より長く、大きくなります。
(2)子どもたちには発達の途上なので、毒物の影響を受けやすい(一部の化学物質は大人より厳しく規制されています。例:防蟻剤クロルピリホスの建築基準法指針値は1µg/㎥ですが小児は0.1µg/㎥)
(3)頭蓋骨の厚さや大きさも関係して、子どもは大人に比べて一般的に、電磁波の頭部への浸透度が高くなります。ユタ大学のオム・ガンジーの調査参照。
9.電磁波からどうやって身を守るか
(1)自分で減らせる曝露
・寝る時の頭の近くにあるACアダプターなどはコンセントから抜く。
・冷蔵庫の裏側の壁に頭を近づけて寝ない。
・携帯電話を頭の近くに置いて寝ない。
・携帯電話はイヤフォンマイクを使い、通話は必要最少に。
・無線LANは有線LANに。
(2)自分で減らせない曝露
・携帯電話基地局が近所へ建設されそうな場合は反対する。基地局を新築しなくても通話は可能(携帯会社によるエリアカバーはほぼ終了。これから建設される基地局は、より速い通信のため)。
・測定をして確認(新築時の場所選び。家の中での寝る部屋選び)。
・シールド(家の中で発生する電磁波を封じ込めることもあるので、慎重に)。
(3)電磁波だけを過度に恐れない
・健康に影響を及ぼす要因は様々です。電磁波だけでなく、化学物質(室内環境汚染(シックハウス)、農薬)、生物汚染(カビ、ダニ)、放射能、精神的ストレスなどもあります。
・「リスクゼロ=絶対に安全な生活環境」を得ることは不可能です。あまり神経質になり過ぎず、手間やお金に無理がない範囲で、人体負荷要因の総量をできるだけ減らすような生活スタイルを心がけましょう。
(4)これまでの経験に学ぶ
・たとえば、農薬・殺虫剤はどのような経過をたどってきたでしょう。
・有機塩素系クロルデン(有機塩素系)は、木造住宅の床下シロアリ防除のために盛んに使われましたが、人体に有害であることが明らかになり、1986年に使用が禁止されました。
・クロルデンが禁止された後、有機リン系クロルピリホス(有機リン系)が主流になりましたが、これも人体に有害であることが明らかになり、2003年、建材への使用が禁止されました。
・新たなもの(本当は有害)が市場に登場しても、有害と確認されて禁止されるまでは、禁止されません。普通に売られ、使われ、被害者が出続けます。
・ 現在、農薬はネオニコチノイド系が普及しています。健康影響、ミツバチ死滅の原因の疑いが指摘され、欧州各国で禁止されました。一方日本では、2015年5月、厚生労働省がネオニコチノイド系農薬の食品残留基準を緩和(ほうれんそうでは従来の13倍に緩和)しました。
・市民の健康よりも産業保護育成を重視する日本政府の政策により、それなりの人数の犠牲者が出るまでは、なかなか禁止されません。
・以上から言えること
「新しいものには用心」
「海外の動向に注目」
(5)電磁波過敏症の方は特別な対応が必要